黄昏の宮−1
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官服を整えてから、鳳珠は春麗を横抱きにして俥を降りた。
抱えられて顔を隠してしまっている春麗に、迎えに出た家令と瑞蘭が慌てるのを「問題ない、少し疲れただけだ。遅いからお前たちも早く休むように」と言ってそのまま自身の室に向かう。
とさり、と寝台に下ろして冷たい視線で見ると、春麗の顔は涙で濡れていた。
寝台横の小さな灯りの下で涙に濡れる顔を見て、少し冷静になり、反対にかける言葉が見つからずに仮面姿のまま見下ろす。
春麗はしばらくぼんやりしていたが、その視線を受けて程なく、徐に起き上がって、無言のままよろよろと黙って室を出ていった。
こんなことがしたかったわけではなかったのに…と鳳珠の心は急に冷えていく。
出ていく春麗に声もかけられなかった。
葵皇毅と何やら話していたことで腹立たしかったのもあるが、それ以上に藍楸瑛と葵皇毅を名で呼んだことがそれに輪をかけた。
小さな嫉妬心で見境がなくなるなど…いい大人のすることでもない。
どさっと寝台に座り込み、仮面を外してから頭を抱える。
春麗のいない世界など考えられないー
だが、あれだけ守ると言っていたのに、体も心も乱暴に傷つけてしまった
今晩のことで嫌われてしまったなら…
ぐるぐると黒い嫉妬と不安が渦を巻くよう心の中をめぐる。
どれぐらいの時間、そうしていたのかもはやわからなくなった頃、ことり、と音がして室の扉が開いた。
手持ちの燭台から黙って鳳珠の机案の蝋燭に火を移す。
ぼうっと明るくなって春麗が目にしたものは、未だ官服姿のまま苦悩の表情で座っている鳳珠だった。
燭台を置いて、鳳珠の夜着を取り、近づく
黙って鳳珠を立たせて、官服の帯を取り、後ろに回って着替えさせようと脱がせていった。
官服を脱いで夜着を肩からかけたところで、鳳珠がくるりと体を反転させ、春麗を抱き締める。
とさり、と夜着が鳳珠の肩から落ち、裸のがっしりとした胸板に顔を押し付けられ、恥ずかしさで呼吸が止まった。
「…怖いか?」
春麗が息をつめた理由を勘違いしたのか、鳳珠は声を少し震わせて尋ねた。
「私が怖いか?」
春麗はふるふると首を振ると、もう一度強く抱きしめられる。
背骨が軋むぐらいの強い力に「んっ…」と小さく声が漏れた。
「どうして…」
「嫉妬だ」
皆まで聞く前に、答えられた。
「葵皇毅と話していただろう?藍楸瑛のことまで名前で呼んだ…」
「ごめん、なさい…」
思いもよらなかった答えに春麗は驚いて顔を上げると、鳳珠は抱き締めていた腕を解いた。
途端に春麗は不安になる。
できるだけ平静を装うかのように、足元に落ちた夜着を拾いながら、それでも震える声で小さく尋ねた。
「もう…わたくしのことが嫌になってしまわれましたか?」
今度は鳳珠が驚く番だった。