黄昏の宮−1
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「…彼が…」
邵可が口を開く
「彼が、娘を直々に御史台に引き取ってくださっという、葵皇毅殿ですか?」
悠舜の双眸にほんの少し興味が閃いた
「ご印象はいかがでしたか?」
「…先の御史大夫だった旺季殿の理念と資質をそっくり受け継いだような方ですね。もし娘が、この先も彼のもとで御史を続けることができたなら女人だからどうのとかいう非難は、いずれ立ち消え似合っていたかもしれませんね」
絳攸は何かに気がついて、はっとした表情をしている。
それに気がついた春麗は、畳みかけた。
「本当ですわ父様。皇毅様っていい上司ですよね。秀麗にどんなに毎日クビにしてやる、って言っていても、きちんと一人の部下、一人の官吏として見てくださっていて…」
春麗が少しうっとりとした感じで言った。
鳳珠は仮面の下で青筋を立てる。
「春麗…お前、葵皇毅のことを名で呼んでいるのか?それから、私もお前のことは一人の官吏として見ているが?」
氷点下三十度ぐらいの声に、劉輝たちはビクッとなる。
悠舜がまた羽扇で口許を隠して笑い、邵可は府庫の主だった頃によくしていた少し困り顔で二人を見た。
「さっき、急にそう呼べって言われたんです」
「それは聞こえていたが、その通りにしなくてもいいだろう?」
「…でも、鳳珠様も最初そうおっしゃったじゃないですか…それはともかく、えっと、葵大夫がそういう意味ではいい上司というのは否定しませんわ…もちろん、鳳珠様もそうですけど…側からそう見えない人が実は、っていうところが余計に良く見えるのかしら…?」
小首を傾げながら、春麗は鳳珠が温めてくれていた手を離し、ふむふむと顎に人差し指を当てて考える。
「春麗…」
鳳珠の声の気温、絶対零度ー
劉輝はもはや半泣きで、絳攸、静蘭だけでなく状況の見えていない楸瑛もブルブル震えた。
悠舜と邵可はおやおや、という表情で見ている。
「あの時、拾われたのが柚梨様ではなく皇毅様だったら御史台に…いってた、ってことはないですわね。その前にきっとわたくしは官吏になっていませんもの、ね?」
チラリと鳳珠を見ると、明らかに仮面の下の不機嫌さが伝わり、春麗は少し背伸びして耳元で囁いた
「忘れちゃったんですか?」と。
鳳珠ははぁ、とため息をついて、ぽんぽんと春麗の頭を叩いた。
どうやら、ツンドラ地帯は脱出できたようで、四人はハァ〜と大きくため息をついた。
悠舜はクスクス笑い、邵可は小声で鳳珠に「すみません」と何故か謝った。
「どうして父様謝ってるのよ?それにため息ついている場合ではありませんわよ。秀麗の情報が中途半端に漏れているということは良くないですわ。漏れている、のか、漏らした、のかはわかりませんけれど、いずれにしてもよくありませんわ」
「そうだな、側から見れば、実際に勅使の任を投げ出し、行方をくらましたとしか映らない。葵皇毅のあの様子だと、先ほど話していたように、勅使の任を全うしてから、というところは公表しないだろう」
鳳珠が初めてこの件で口を開き、邵可を見る。
「覚悟はしておいたほうがいいでしょう」
劉輝は唇を噛み締めて俯き、ただ一度、こくりと頷いた。