黄昏の宮−1
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室に戻ろうと体の向きを反転させると、室の入り口から出たところに鳳珠が立っていた。
(いつからいらしたんだろう?)
声は落としたし、この距離なら会話が聞こえていなかったと思うが、少し不安になりながら戻る。
御史台長官を相手にするには、結構キワどい会話になっていたと思う…
鳳珠は戻ってきた春麗の腰に手を当てて、何も言わずそのまま室内へ促した。
室内はずっと沈黙が落ちていたようだった。
(私が出て行ってから話してないのかしら?)
春麗は少し不思議に思ってから…その重い空気の理由が思い当たり、クスリと笑った。
つられるように、ふと小さな笑声が落ちた。
静蘭はその声の二人を睨みつけた
「…悠舜殿、そして春麗お嬢様、何か?」
睨まれても悠舜は笑ったまま、羽扇で口許を隠した。
それを見て、同じように黄色い扇を出してぱらりと開き、春麗も口許を隠す。
「春麗姫、あなたからどうぞ。まぁ邵可殿も鳳珠もわかっていると思いますが…」
「悠舜様を差し置いて、わたくしのような若輩者が申し上げるなんて」
二人は謎の譲り合いを続けている。
鳳珠は「どっちでもいいんじゃないか」と呟いた
「では、僭越ながら…悠舜様のご意見が異なったらおっしゃってくださいませね。さすが父様、と。葵大夫からよく情報を引き出されましたね…そこの机の下のお二人さん、お分かりになられました?」
「え?っていうかいたのバレてました?でも何も教えてくれなかったですよね?」
絳攸を引っ張りながら、楸瑛が出てくる。
「藍将…いえ、楸瑛様はお気づきになりませんでしたか…絳攸兄様は?」
春麗の言い直しを嫌味ととった楸瑛と、下の名前で呼んだことで青筋を立てた鳳珠が、それぞれ渋い顔をする。
ただし、鳳珠は仮面の下だったので悠舜しか気づかなかったが…
「…」
邵可のことを”吏部尚書親子よりだいぶマシな当主”と評されて、養い親と同じに見られていたことにより灰になっていた絳攸は、終わりの方の会話が耳に入っていなかった。
実際、まだ灰になったままだったが。
それを見た春麗のため息を受けて悠舜が答えた。
「春麗姫と同じ意見ですよ。御史台は動くつもりはない、と言ったでしょう?つまり、探す気もないが、捕縛する気もない、ということです。その彼が動くつもりはない、といったということは、秀麗殿は”勅使の任務をまっとうした”ということだと思います。少なくとも経済封鎖の解除を確かめ、なんらかの連絡をしてから失踪した可能性が高い、ということです」
邵可、鳳珠、春麗は頷いたが残りの四人の目は丸くなった。
「え?なに?秀麗は他の仕事でどこかに行ったかもしれない、ということか?」
劉輝は混乱した
「さて、動かないのか、動けないのか…仙洞令君と一緒に消えて、御史台が手を出せない場所、となったら行き先は…」
つぶやいた邵可が視線に気づいて顔を上げると、悠舜が面白そうな目で見つめていた。
まるで邵可がわずかな手がかりからどこまで糸を引っぱることができるかを見るように。
「…行き先は、治外法権の縹本家の可能性が高い気がしますが、どうですか、悠舜殿」
「かも、しれません」
悠舜は否定しなかった。
邵可は春麗を見る。
春麗はその視線を受けて意味を理解し、少し遠くを見て、そのまま目を閉じた。
以前、羽羽に言われた時間をきっちりははかり、頃合いになった時に、横で見ていた鳳珠が春麗の手を取って少し強めに握った。
少し冷たくなった指先を温めるように包んで力を入れると、パチパチ、と瞬きをしてから鳳珠を、それから邵可を見て、薄く微笑んだ。
肯定の証と捉え、邵可も軽く微笑んだ。
「大丈夫か?」
「えぇ。ありがととうございます」
鳳珠は春麗の小さな両手を取り、自らの手で包んで温めた。
「えっと、あれはどういう…?」
小声で楸瑛が絳攸に尋ねる。
絳攸と劉輝は目のやり場に困ったかのように、ドギマギしていた。