黄昏の宮−1
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「私に紅秀麗探索の指揮を執れと命じられるなら、いたしましょう。ただし、私と尚書令をこのように直々に呼びつけ、勅命を下す以上、陛下に置かれては紅秀麗の案件は、”他のいかなる国事を差し置いても最優先事項とせよ”ということだと解釈してよろしいですね」
劉輝は俯いた。
「いや…余が軽率だった…忘れてくれ」
皇毅はつと邵可を見ると目礼した。
「申し訳ないが、ご息女はまだ官吏です。特別な配慮をするわけにいかないことをどうかご理解いただきたい」
「いえ、おっしゃる通りです。私も特別措置など望んでいません。あくまでも娘を一官吏として扱ってくださることに感謝します。葵長官と主上には、むしろ娘がご迷惑をおかけしたことを謝罪しなくてはなりません」
「なるほど…先の吏部尚書親子よりは、だいぶマシな当主であられるようだーーー現状、御史台は動くつもりはありません」
そうして辞去の言葉も述べず、いかにも無礼千万に出て行った。
春麗は間髪入れずにさっと追いかける。
扉を出て少し離れたところで
「あのっ…!」
と声をかけた。
「なんだ?」
皇毅は凄みを持った表情で、ゆっくりと振り返る。
「あの…紅秀麗を、ひとりの官吏としてきちんと扱っていただき、ありがとうございました…先ほどのお言葉…」
「ふん、そんなことか…お前もまだまだ甘いな、紅春麗」
「官吏になってからほとんど話す機会はなかったのですけれど、後宮入りを決めた後に、葵大夫に泣かせてもらった、と紅州に向かう前に話してました。…それともう一つ、秀麗の失踪については先程、葵大夫から暗に答えをいただいたと思っております。ただ、自分で決めたことですから、嫌で…帰ってこないわけではないかと…」
春麗は頭を下げた。
皇毅はその姿を見て、少し近寄ってきて小声で話す。
「…私への礼はいらん、が、一つ答えろ。先ほど、紅家当主は、”一名を除いて"と言ったな。お前を切り離したように見えたが…どうだ?お前自身はどうするのだ?」
「…」
「…」
まだまだ水面下での戦いのはずだ。
(悠舜様はともかく、今の時点では主上はまだ"ツケを払う"くらいとしか思っていないはずだわ…貴族派が攻勢をかけてくるにはまだ早い…”鳳麟”なら後いくつか、それもえげつないことを仕掛けてくるに違いない…)
春麗は綺麗に微笑んでから口を開いた。
「わたくしの心は既に決まっておりますわ。でも…それをお答えするのは今ではないと思っております。そして…ある条件がない限り、現時点で自ら積極的に動くつもりはありませんわ」
「そうか…いや、それでわかった、いい」
「先程の…お礼ですわ」
春麗はクスクス笑う。
葵皇毅は表情を変えずにーーいや、凌晏樹がみたら驚くであろうほど面白そうな顔をしたーー他の人には全くわからないが。
春麗の先に人影が見え、皇毅はそちらに視線を移す。
距離はあるが、仮面の下の目があったように思った。
(…)
皇毅は先ほどより少し声量を上げて、そっと春麗の髪を撫でるように手を伸ばしてから告げた。
「そうだな…今度会ったときは…私のことも名で呼んでもらおうか?」
「葵大夫?」
態度と意味がわからずに、首を傾げて尋ねた春麗にクスリと笑いながら答える。
「皇毅、だ」
踵を返して去っていく。
(私のこと”も”って、誰と比較してるのかしら?)
春麗は頭に疑問符を飛ばしながら、その後ろ姿に礼をした。