黒い蝶ー3
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「鳳珠様?」
小さく声をかけてから室を覗くと、本を読んでいた鳳珠が立ち上がったので中に入る。
パフっと抱きついたら少し驚いた顔をして、そのあとキュッと抱きしめてくれた。
「話はなんだったんだ?」
「王の…要請を受けた、と。官吏をやめて、紅家直系の姫として後宮に入る…と…主上は…あの子の夢を…本当に心から望んでいた官吏の道を潰してしまった…」
口に出してみたら、じわりと涙が浮かんできた。
「そう、か…」
潤んだ春麗の瞳を見ながら、ぽつりと鳳珠は答えた。
秀麗の官吏になりたいという思いを、初期の頃から見てきたのを懐かしく思い出す。
(馬鹿な王だ…王という立場なら、朝廷の中で唯一彼女だけが、全てのしがらみを取り払って、無条件で王に尽くしている者だということをわかって然るべきなのに)
「葵大夫に抱きついて大泣きしたようですよ、あんなに毎日クビだって言われていたのに、って苦笑いしていましたけれど」
「ほぅ…」
「でも…主上は誰よりも誠実に”王の官吏”でいた紅秀麗を自らの手で切り捨てましたね…この前の重臣会議で、飛翔様と玉様は主上についたように見えましたけれど、来尚書などはバッサリ主上を見かぎりそうです」
「そうかも、な…」
鳳珠は寝台に腰掛け、春麗を膝の上に乗せて「それから?」と促す。
「葵大夫から、最後の仕事として、勅使として紅州に行ってこい、と…燕青と、タンタン?さん?とやらと、リオウ殿が一緒のようです」
「葵皇毅もなかなか粋な計らいをするものだな。まぁ、実態はそんな綺麗事ではないとも思うが」
「えぇ…わたくしを出すことも可能だったと思うんです。紅家直系の姫としての勅使であれば、御史をつけて。まぁ秀麗を使う方が本人が御史ですから話は早いですけれど、不可能ではなかったと思うんです」
「そうだな…それがどう作用するかは別として、その線もありえたわけだ」
鳳珠は春麗の鼻をチョン、と指先で軽く叩いた。
それから肩口に顔を埋めて「行かないでくれて良かった」と言った。