はじまりの風−3
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その後、戸部侍童として3週間近く経った頃の朝
「もう、ひと月もたつわね。明日、家に帰りましょう」
と秀麗が言った。
「静蘭には後で話しておくわ。見送りは、おそらく藍将軍と絳攸様がしてくださるとおもうの」
(明日…絳攸兄様とここで会うのは得策ではない。戸部の仕事もあるし…)
「秀麗、わたくし、別の仕事があると言っているわよね?そちらはきちんとやって、ご挨拶してから帰りたいので、明日は先に帰っていて」
「えっ?でも…」
「家の片付けを先にさせるみたいで悪いけれど…頼んだわね。父様には言えばわかると思うから。じゃあ行くわ」
手を振って別れる。
「おはようございます」
「おはよう」
「あの、黄尚書、景侍郎…僕、明日が最後になりました」
「そうか…」
「そうなんですか!?そういえば、臨時、っていってましたね。本当に残念です…」
景侍郎は心からがっかりしてくれているのが伝わって、申し訳なくもあり、また残念におもってもらえることに少し嬉しくもなる。
「そう、なんです。本当にお世話になりました。ありがとございます。あと2日頑張ります!」
寂しさを隠すように、元気に伝えて仕事にとりかかる。
最後の日の午後、書類の片付けをしていたら、
「天寿くん、尚書が呼んでいます」
と言われて尚書室に入ると、侍郎が入れ替わりに出ていって扉を閉めた。
??
立ち尽くしていたら、そこに座れと指示される。
「よくやってくれた、褒美だ。仕事も早いし的確で、本当によくやった。礼を言う」
厳しい黄尚書から褒められるとすごく嬉しい…
「こちらこそ、ありがとうございました。いただきます」
お茶と、見たことのないお菓子
一口食べたらふんわり甘さが広がり、自然に笑みが溢れる。
そんな様子を尚書は仮面の下で目を細めて見ていた。
「また…来てくれる機会があったら、よろしく頼む」
「はい!」
「それから…頑張りすぎて無茶をしないように」
「はい…」
心配をかけてしまったことを思い出し、思わず下を向いてしまうと、いつものように頭をぽんぽんしたあと、わしゃわしゃと撫でられた。
優しい気持ちが伝わってくる大きな手のひらは安心感があって嬉しい。
気持ちよくて思わず目を閉じたら、一瞬手が止まって、そのあとまたポンポンとされた。
目を開けて顔を上げると、仮面から出ている耳が少し赤くなった尚書がいた。
「今回の件、あの給金では足りないぐらい働きました」
宮城を出る前に、霄大師に悪態をつきに行く。
「すまなかったの」
「の、ではありません。全く、やらされすぎです。もう仕事は終わったと思うので、これで邸に帰ります」
「春麗にはよく働いてもらったと霄が言ってたぞ。が、いなくなると、寂しくなるな。いつでも相手をするから文をよこせ」
ばん!と背中を叩いて、宋太傅が労ってくれた。
「勝負はもうしません。では、失礼いたします」
きちんと礼を取り、宮城を去った。
「またそのうち、戻ってくるだろうよ」
霄大師は街を見ながらぽつりと呟いた。