黒い蝶ー3
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邸に帰って程なくして、柚梨がやってきた。
通された室は柚梨が初めて足を踏み入れるところで、不思議そうにみている。
「少し前から、ここを二人で使う仕事室にしたんだ。黎深の件の時にーまぁ今でもそうだが、春麗が心配してくれて、別々に仕事をしていると寝ないでやっていることに気づかないから、仕事の時はここを使う、と決めさせられた」
「鳳珠…あなた本当にいいお嫁さんをもらいましたね」
柚梨は感動して泣き出さんばかりの勢いである。
苦笑いしながら「こちらにどうぞ」と椅子に促して、春麗がお茶を出した。
「話が終わったら柚梨様もご一緒に食事にしましょう」
「邸に連絡しなくていいのか?」
「鳳珠のところに寄ってから帰る、と言ってありますから、多分用意していないでしょう、大丈夫です」
ひと段落したところで、話し始める。
「確認はすぐ取れましたよ。実は昨日、浪燕青殿が同じことを聞きに行って調べていたようです。まだ燕青殿には返事していないとのことでしたけれど」
「あぁ、秀麗の裏行やってるみたいですよ、燕青殿」
「それで、春麗ちゃんの読み通りです。紅州産の石炭と鉄が大量にどこかに消えた、と。それから、製鉄技術者も何人かいなくなっているそうです」
サッと春麗の顔色が変わった。
「どうした?」
「実はここだけの話…えぇ、誰にも決して漏らさないでいただきたいんですが…」
頷いた二人を見て、それでもまだ迷うかのようにパチパチと瞬きをしてから、春麗は口を開いた。
「紅州には特殊な製鉄技術があるんです。昔は…それを他州に漏らさないために、職人の舌を切ってしまっていたというぐらいです。流石に、今はそこまではしていませんが…その技術は、一度に大量生産ができる技術なのです」
鳳珠と柚梨は顔を見合わせる。
「ということは、武器の大量生産ができてしまう、ということですね…」
「今回の一件で元締めの鳳麟が偽物として、なおかつ朝廷で大官をやっている、となると、狙いは王だな…」
どんよりと重い空気になる。
春麗ははっとしてからサラサラと文を二通書いた。
回廊に出て庭に行き、扇を開いてボソボソというと二人の影の気配がしたのでそれを渡す。
「これは父様に大至急お願いします。こっちは百合叔母様に」
それぞれ渡すと、音もなく影は消えていった。
どういうわけだか邵可からの文の返信はないが、それに構わず一方的に送り付けている。
おそらく、邵可のことだからそれを見越して動いているだろうと信じて。
月明かりを受けて、一瞬だけ紅州に視線を飛ばす。
山道を歩く邵可と黎深が見えて、もしかしたら”鳳麟”の里を目指しているのかしら、と思ってから、目を開いて元の室に戻った。