黒い蝶−2
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「彼女は女です。しかも直系。筆頭女官に遇せられた藍家の十三姫は妾腹ですが、彼女は嫡出。十三姫より格式が高い。十分値します。ー召し上げ、妃として後宮にお入れなさい」
劉輝の目が大きく見開かれた。
どよめきが上がって騒がしくなる。
「だがそれなら、紅秀麗でなく、ここにいる紅春麗でもいいのではないか?」
誰かが声を発した。
春麗は(きたか…)と心の中で覚悟を決め、もう一度扇を握りしめた。
「それも一理ありますね…ねぇ、紅礼部侍郎?いかがです?」
晏樹はクスクスと笑いながら首を傾げてこちらを見る。
(本当に…この男は油断ならない…葵大夫の言った通りだわ、関わると愉快痛快不愉快になりますわ)
心の中でひとしきり悪態をついてから、春麗は黙って懐から扇を出し、この問いに対する答えと、今後の全てに対する自分の姿勢を重ね合わせて、懐から手を出し、ぱらりと開いた。
それは紅黎深を彷彿とさせる仕草で、なおかつ彼女が朝議の時に時々行っていたものでもあった。
開かれた扇は…紅色の官服には眩しすぎるほどの、準禁色の黄色。
じわじわと場がざわつく。
「おい、準禁色だぞ」
「しかも黄色だ」
鳳珠は目の端でいつか見た黄色の扇を認め、仮面の下で口角をあげた。
だが春麗は、そしてもちろん鳳珠も何も言わない。
ざわつく喧騒の中で、しっかりと通る声で口を開いたのは、リオウだった。
「そういう、ことだ。紅春麗は…後宮入りは、”ありえない”」
王の婚姻には仙洞省の承諾がいる。
リオウが言いきったことで、場はまだざわついているものの、話の対象は紅秀麗に戻ったようだ。
周囲のざわつきを聞くことなく、晏樹は春麗の態度とリオウの言葉の意味をしばらく考えて、ハッと皇毅を見る。
(お前、知らなかったのか?)
という表情をしてから仮面尚書に視線を移した。
晏樹も釣られて見る。
仮面の下でフッと笑われたような気がした。
「…ひどいじゃないか皇毅、教えてくれても!」
「別に必要ない情報だろう」
馬鹿馬鹿しい、という顔をして視線を元に戻す。
意味がわからずざわついている周囲をよそに、晏樹はコホン、と軽く咳をして気を取り直したように、もう一度口を開く。
「紅秀麗が王と姻戚を結んだなら、紅家がもうこんなバカなことをすることもないと思いますよ?まぁもちろんー」
「ーもちろん、その時は当然紅秀麗には退官してもらわねばな」
刑部尚書・来俊臣があとを継いだ。