黒い蝶−2
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晏樹はチラリと春麗を見てから、わずかに笑った。
(薄気味悪い!)
春麗の背中に、ぞくっと嫌な予感、いや悪寒が走った。
微動だにしないことでなんとか見せなかったが、ぎゅっと手を握る。
「ところで、私からも一つ提案が…紅家の怒りを静めるには、御史台といえど簡単にいかないでしょう。紅家当主、紅黎深の弾劾請求をとったのは他ならぬ御史ですから」
「…それが、どうした?」
劉輝は怪訝に思った。
「わかりませんか。ホラ、一つだけあるでしょう?紅姓官吏を特別扱いすることもなく、紅家を特別扱いする方法が。驢馬みたいに頑固な紅一族の気が変わるかもしれない一案です。主上にしかできないことでもあります」
「余にしかできないこと?」
「ええ。あまり知られていないようですが、朝廷には今二人だけ、紛れもない紅家直系官吏が残っております。今回出仕拒否をしなかった、ただ二人の紅姓官吏です。そのうちの一人は、自らの良心に従い、紅家ではなく、王と朝廷に従ってくれたわけですが。あぁ、もう一人は…その心はよくわかりませんが。」
「紅家直系官吏だと?他に?」
「紅姓官吏は山ほどいるが…」
ざわ、とその場が揺れた。
視線は春麗に注がれる。
半数はもしや…と思っている者たち
残りの半数はいやしかし、ただの紅姓官吏だろう…と思っている者たち
ーーー進士時代の紅黎深拘束事件の時と同じような、そんな視線だった。
(こうきましたか…)
春麗にはこの後で晏樹がいうことがはっきりわかった。
あえて残った理由をー春麗の残っている理由がわからない、と付け加えたのがその伏線だ。
鳳珠との間には魯尚書と柚梨がいる。
表情を見ることも話をすることも、こう視線が集まっていると難しい。
敢えて二人とも自ら言って歩かなかっただけで、結婚したことを積極的に隠していたわけではない…
ぱちっと瞬きをして肚を決め、懐に手を入れ、二つの鉄扇の間に指を入れて二つともに触れる。
この先の晏樹の発言次第で、どちらを出すか決めよう、と思った。
紅姓官吏であることに関すれば紅、個人的な事情についてなら黄…
「みなさんもよくご存知のコですよ。ものすごく出来が良くて」
晏樹はゆったりとした動作で、周囲にわかるようにこれみよがしに春麗を見る。
春麗は視線を逸らさずに顔を上げたまま、晏樹を見つめ返した。
話の先が読めた春麗は、懐の手を、一つの扇に持ち変え、しっかりと握りしめる。
まさか、と誰かが呟いた
「…紅春麗と、紅秀麗?」
「その通り、彼女たちは紅家三兄弟の長男の双子の娘ですよ。つまりは紅家直系長姫。紅家の血統序列で言えば上から第四位。三兄弟の次に来る貴種中の貴種。紅一族で、いえ、この国で一、二を争う毛並みの良い高貴なお姫様というわけです」
唖然とした沈黙が流れた。
「紅黎深を更迭したのは紅秀麗ですが、多分、陸清雅だったら不可能だったでしょう。かわいい姪っ子だからクビにされてやった節があります。目の中に入れても痛くないってやつです、ねぇ」
晏樹はまた春麗を見る。
「そ、それで、紅御史を勅使に立てよということか?それなら…」
「さて、それは最終的には葵大夫が決めることですから、どちらにせよ、もっと効果的に使う方法があります。主上にしかできないことと申し上げたでしょう?」
コツ、と晏樹が沓を小さく鳴らした。