黒い蝶−2
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
欧陽侍郎は隣の飲んだくれ尚書を見ると、ため息をついた。
「…そうですね。楊修、あなたは貴族なんですから、とりわけ言動には注意しなさい。紅姓官吏のしたことは当主同様バカですが、かつて公子争いの時、どこのどいつらが特大のバカをやったかはわかっているでしょう。多くが貴族でした。それを思い出させるような真似は慎みなさい。下手をすれば実力主義どころか、時代遅れの貴族主義の復活に見えますよ」
飛翔は口をあんぐりと開けて副官を見た。
「???何考えてんだ陽玉。あいつお前のダチなんだろ?」
「いいんですよこれで」
小声でやり合っているのが聞こえた。
また議論が始まる。
(まぁ、なるようになる、かしらね…)
春麗はふぅと息を吐いた。
「…それで?」
騒がしい中、張り上げているわけでもないのに澄んでよく響く声がその場に落ちた。
「王の意見は?」
真っ直ぐにリオウが劉輝を見る。
絶妙な間合いに悠舜も旺季も驚きつつ、軽く安堵した。
旺季は副官の晏樹を睨んだ。
いつもは”中立”である彼が面白そうにニコニコ眺めているだけの時は、何かしでかす兆候とわかっているからだ。
「楊修の判断を容れよう。確かに紅姓官吏にも落ち度はあった。後任人事が抜かりなく公平を期して行われたものなら、構わぬ。その点は?」
「それが吏部の仕事ですから。吏部侍郎としての職責において、正当で公平な人事をしたつもりです。御史台でもなんでも、如何様にもお調べくださって結構」
「わかった、ならばよい。だがクビになる前に戻ってきた紅姓官吏については、吏部で吟味したのち、復職も選択肢の範囲に入れて検討してくれ」
「…理由は?」
「冗官から使える者を吟味して復職させたのは他ならぬそなただ。誰しも間違いはある。反省の色が見えぬようならば、もちろん入れ替えても構わぬ」
驚いたような戸惑ったようなさざめきが広がる。
リオウはふと笑った。こいつらしい、と。
「…そうか。俺は、いいと思う。賛成する」
「私もですな」
静かに続いたのは魯尚書だった。
「私は長らく新人官吏の教育を担当してまいりました。紅姓官吏も多く存じております。確かに彼らの気性は極端ですが、自分の非を認められないほど狭量ではありません。何よりも一度の失敗で見限るより、もう一度機会を与える。それが本当に人を育てるということです」
軽々に言葉を弄さない彼の言葉は、多くの大官を育てた実績とともに、重みを持って響いた。
副官が紅春麗だからということを指して責めるものは一人もいなかった。
「わかりました。そのように計らいましょう」
楊修の言葉に頃合いと見た悠舜は、口を開いた。
「では次へ。事前に固く申しつけておきますが、くれぐれもいたずらにこの件を広めないように。喫緊の対策を要します。ーーー紅州が経済封鎖に踏み切りました」