黒い蝶−1
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そこからさらに数日後、秀麗がようやく紅姓官吏が出仕拒否をしていることを知って葵皇毅長官に突撃していた頃、春麗は柚梨と御史台に来ていた。
そのため、隣室で秀麗がなにやら叫んでいる声がうっすらと聞こえる。
「秀くん、なんだか随分変わりましたね」
「もともとあんな感じでしたけどね、勢いが増したというか、口が悪くなったというか…スミマセン」
別に春麗は悪くないのだが、なんだか柚梨の”秀くん”の印象を変えてしまったような気がして謝っておいた。
小声で話しているうちに、清雅が入ってきたので会話を止めた。
程なくして、葵長官と秀麗が入ってきた。
「景侍郎!と春麗?」
秀麗は気がついたようで取り繕ったように柚梨に礼をした。
柚梨と春麗は軽く微笑んだだけだった。
ー戸部。秀麗はハッとした。
「まさか、また塩の値段が?」
「いや、今度は違う。紅州の監察御史と景侍郎、紅尚書補佐、清雅が調べた資料だ。目を通してみろ」
極秘案件とわかった秀麗は息を呑んだ。
清雅の調査はここ最近の農産物および資源の原価と流通量、戸部の資料は例年の今頃の変動を示したものだった。
それを比べてみるととんでもない事実が浮き彫りになっていた。
「…農産物や鉄の原価がー残らず跳ね上がってる…?もしかして、原材料の急高騰を抑えるために、関係する調味料の価格をちょっとずつ引き上げて、高騰率を分散させてました…?」
柚梨は驚いて目を丸くした。その通りだ。
春麗は”調味料”でピンときてさして驚かず、静かに言った。
「やっぱり秀麗は気がついたわね。もしかして、塩の時と同じで邸で?」
「えぇ」
「一時的な措置ですが、貴陽全商連と交渉して、米や油が一気に上がらないよう、関係する物品に値を振り分けて、小幅の上昇で凌げるようにしてもらいました」
説明をしながら秀麗が資料を見ただけでそこまで気がついたことに柚梨は驚いたが、それを聞いても葵皇毅や陸清雅が驚いていない。
それぐらいできて当然の官吏、と見られているということだ。
葵皇毅の罵倒と常にクビと隣り合わせであったからこそ、ここまで急成長できたのだろう、と思いながら隣を見た。
これを同じ女人官吏である紅春麗に置き換えてみれば、彼女は鳳珠や自分に守られていて(もっとも鳳珠の仕事の仕方も葵皇毅と並んで
かなり苛烈ではあるが)、クビと隣り合わせなんかではないが、それでも出してくる能力はそれ以上だということは誰より柚梨が知っていた。
(春麗ちゃんは一体どこでそれを身につけたんでしょうね…)
一瞬違うことを考えていたが、秀麗の声で柚梨は引き戻された。
「…葵長官、御史大獄がずれた本当の理由は、この情報が上がってきたからですか?」
「ああ、李絳攸の裁判なんぞ問題にもならん。清雅に急ぎ調べさせる必要があったからな」
「…そんな急ばしのぎをしているということは。不作ってわけじゃないということですよね」
「その通りだ。例年通りの出荷と値段だったのが、ある時期から流通量が一気に減った。というか、正確にはある家によって制限がかかった。ちょうど、紅家当主が罷免された直後からだ」
秀麗は弾かれるように顔を上げた。
そして春麗を見る。
春麗は、その瞳を正面から受けた後、目を閉じてため息をついた。
口に出さずともそれは肯定の証だった
「…紅家系商人が一致団結して供給を制限したわけだ」
葵皇毅がダメ押しとばかりに告げた。