はじまりの風−3
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本当は翌日からでも外朝へ出たかったが、戸部の全力仕事にはまだちょっと自信がなかったので、女官姿で後宮内を歩き回っっていた。
(いま木刀振ったり鍛錬したら確実に父様に叱られるし、秀麗にも見つかるし…どうしたらいいかしら?)
仕方なく、室と外を行ったり来たりする。
朝は二人にお礼の手紙を書き、父親に託した。
しばらくして、黎深が顔を出す。
全く、どうやって秀麗と鉢合わせしないようにうまくやっているんだか、と昨日も今日も不思議になる。
「叔父様、お手紙くださるのはいいですけれど、桃色の料紙を私に送るのはちょっと違うと思いますよ?」
「そ、そうなのか?紅家だからいいかと思ったんだが…」
はぁ、小さくため息をつく。
「まぁ、百合叔母様と私以外はやめておいてくださいね、勘違いされます」
「どういうことだ?」
「普通、桃色の料紙は恋文に使います」
「そうなのか…まぁ、構わんがな」
何が構わないんだかさっぱりわかんない、とお茶を渡しながら思う。
もっとも、黎深の世界は邵可一家と百合と絳攸以外はぺんぺん草、というのを春麗は知らない。
しばらく話していたが、「明日出てきたら一番に吏部にこい」と言ってそそくさと黎深が出て行った。
もしや…と思い、黎深の分の茶杯を片付けたと同時に、「春麗、いる?」と秀麗が入ってくる。
(危なかった…茶杯あったら質問攻めだった)
慌てた様子を見せないように気をつけながら尋ねる。
「どうしたの?」
「ちゃんと大人しくしているか見にきたのよ!」
「うーん、体力が落ちているから、少し後宮の中を歩いているぐらいよ。もう大丈夫よ」
父様に密告されないように、大人しくしていることを伝える。
「それならいいんだけど」
「静蘭はどうしてる?」
「春麗と一緒、本人はもう大丈夫だと言っているけれど、怪我がひどいからまだ寝台に縛り付けているわ。様子見に行く?」
「うーん、後にするわ。ちょっとやりたいこともあるし。」
なんとなく秀麗といくのに気が引けて、断ってしまった。
昼過ぎになって、秀麗がいない頃を見計らって、静蘭のところへ顔を出す。
「こんにちは静蘭、怪我はどう?」
「春麗お嬢様!お嬢様こそ大丈夫ですか?昨日ようやく目が覚めたとか。みなさん心配してましたよ」
「そう見たいね、寝てたから全然知らなくて、アハハ」
「あはは、じゃありません。春麗お嬢様にもしものことがあったら、旦那様も秀麗お嬢様も私も、後悔しても仕切れませんからね!ご無理はなさらないでください」
「そぉお?ありがとう」
「お嬢様…」
(あ、静蘭に青筋が立ってる…)
「わかりましたわ、気をつけます」
来たのはいいが、あっという間に気まずくなる。
(どうしたものかな〜あなた、清苑公子でしょ?とか言えないし…大体、わたくしが聞いていたの、知らないものね)
どう切り出すか、もっと作戦を練ってくればよかったと後悔し始めた時に、静蘭が口を開いた。
「春麗お嬢様、私たちに隠し事しているでしょう?」
「そう?そんなことないと思うけれど、それをいうなら…あなたもじゃない?」
「・・・」
「ねぇ静蘭、家族でも隠し事の一つや二つ、あるわ。秀麗がなんでも話すからあなたはあまり気づかないかもしれないけれど。”隠したいから”隠しているのであって、それを暴くのは得策ではないわ、そうでしょう?」
わたくしの隠し事も大概ひどいけれど、静蘭はもっとひどい。
今となっては父様だけが知っている、そして、きっと昔の馴染みだけが知っている”それ”は、ようやく落ち着きつつあるこの国が壊れる原因にもなる。
(やっぱり、知らないふりが一番ね)
「納得いかない、って顔しているけど、隠し事をしていても、わたくしは父様も秀麗も静蘭も家族だと思っているし、頼りにしているわ。静蘭、重荷になって悪いけれど、父様と秀麗をよろしくね」
ひらひらと手を振って出ようとしたら
「春麗お嬢様は!」
春麗は足を止める。
「春麗お嬢様は、私には頼ってくださらないのですか?」」
びっくりして振り返る。
「頼らない、とは言わないわ。でも、父様と秀麗を優先して。これはわたくしからのお願いよ、静蘭」
今度こそ、振り返らずに、室を出る。
もともと、あまり家にいなかったぶん、距離のある家人なのだ。
一緒にいる秀麗を優先してもらえればそれでいい。