黒い蝶−1
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戸部に戻ったときに、文が届いていた。
”春麗へ
宮城を辞すことにした。
黎深と一緒に紅州に帰る
父より”
「…」
文を手にしたまま、鐘三つ分は固まる。
が、「すみません、少し出てきます」と戸部を飛び出していった。
府庫に行ったら、まだ目当ての主はいた。
「父様!」
「おや春麗」
「おや。じゃありません…決められたことに文句は言いませんけれど…、文で知らせる、って何なんですか?」
春麗は少し肩で息をしながら、邵可に近づく。
「君は、なにをしに帰るかわかっているね」
「えぇ…父様しかできないことだと思いますわ。玖琅叔父様ではなく、父様がなるんでしょう?」
邵可はふっと笑う。
実務者としての感覚は秀麗の方が長けている気がするが、先を見ることをせずとも、政治的な感覚は春麗の方が圧倒的に上だ。
もしかしたら黎深や三師が教えていたのかもしれない、と今更ながらに気がついて苦笑した。
「?」
「いや…春麗の政治力は黎深か三師が教えたのか、と思っただけだ」
「やだ父様、黎深叔父様は”天つ才”ですもの、教えることはしませんわ。ただ考え方を示すだけであって、あとは自分で考えろ、ですもの。強いていうなら手取り足取り教えてくださったのは茶太保ですわね…」
優しかった茶太保を思い出して、春麗は少し遠い目をした。
「今回の紅家の後始末をしないといけないからね。春麗が言っていた”小さい嵐だけれど紅家にとって大きな嵐になる”はこれだろう?」
「えぇ。この後にもっと大きなことがあると思っていますけれど…父様ももうお気づきでしょう」
「あぁ。劉輝様の今までのツケを払う、大きなことだね。秀麗には静蘭や燕青殿がいるけれど、君は鳳珠殿だけだ。私は近くにいられないから、くれぐれも気をつけて」
「えぇ。いざという時のために身体も動かしているから、心配しないで。それより…黎深叔父様のこと、お願いしますね。もう少し波乱がある気がするの…」
凌晏樹の言葉が蘇る。
”悠舜の出自について知らないのか”
「ある人が、黎深叔父様に余計なことを言ってしまったみたいなので…それがどういう結果なのか、よくわからないんだけれど、多分、叔父様がそれを知った時におそらくすごく混乱すると思うから…それは、父様か同期の方しか道を示してあげることはできないと思うの…叔父様にとって最悪の結果だった場合は、それも無理」
「そうか…わかった」
「紅州の様子は影を使って知らせてください。貴陽にいるわたくしたちが道を誤らないように」
「…わかった。明日にでも立つ。きっと、すぐに会える」
「えぇ、父様。気をつけて」
流石に”退官する”となると、何やら複雑な思いが込み上げてきて、少し春麗は気を紛らわせてから戸部へ戻っていった。