黒い蝶−1
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御史大獄
それは御史台主導の裁判であると同時に、御史台長官及び刑部尚書、大理事長官という司法の頂点に立つ三人が集まる特殊な裁判でもあった。
李絳攸の処遇を決めるはずだった御史大獄は、吏部尚書更迭という辞退を受けての対処に追われ、急遽当初予定より五日ほど延びることとなった。
その間の噂は清雅と秀麗のガチンコ対決ではなく・・・
「刑部尚書が来俊臣ですか…世も末と言いますか、先王陛下が大物というべきか…」
悠舜は羽扇を握りながら、珍しく天を仰いで嘆息した。
「今更ぶつくさ言わせてもらいますが、なぜ誰も反対しなかったんですか?鳳珠」
「…黎深よりはマシだとみんな思ったらしい。少なくともあの人は仕事はちゃんとやるしな。とりあえず最後に来俊臣殿が刑部尚書に確定した時点で、尚書令になりたいとせっせと根回しする輩は、貴族派からも国試派からも蜘蛛の子を散らすようにぱぱっと消え失せた」
そんな誰もなりたくない尚書令に納まってしまった悠舜はぷるぷると震えた。
霄太師ー!
劉輝は目の前にいる悠舜と奇人ー鳳珠を交互に見た。
そこに黎深はもういない。
二人は平然としているようだったが、それはやはり本来の姿ではなかった。
ーーーいるべき人がいない
劉輝でさえ彼らの間から大切な何かがこぼれ落ちてしまったと、心が小さくなる想いなのに、当の二人がそう感じていないわけがない。
鳳珠についてきていた柚梨と春麗は劉輝の気持ちを汲み取って、それぞれそっと目を閉じた。
「刑部尚書は…悪夢の国試組の一人なのだったな?」
その瞬間、悠舜と鳳珠の会話がピタッと止まった。
「…え?あの、別にそんな、変な人には見えなかったが」
劉輝の言葉に少し間が開く。
「……そうですか。変な人には見えませんでしたか…まぁ黎深よりマシなのは確かです。どこがどうマシなのか言いにくいですが」
「マシだが、ある意味格上だ。黎深でさえ、あの人に遭遇すると一目散に遁走したからな」
「まぁ!」
春麗が驚いて声を上げる。
「あれは見ていて小気味良かったが、黎深が逃げると私たちにとばっちりがくるからな…」
その時、静蘭が首を傾げながら入室してきた
「失礼します。あの、御史大獄なんですが、どうも刑部尚書が…昼間は外に出たくないから真夜中にずらしてくれって言ってるとかいないとか」
悠舜と鳳珠は予想通りの展開に、引き攣った顔を見合わせた。