はじまりの風−3
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「黎深、そろそろ秀麗が様子を観に来ると思うけど、君はどうするの?」
という邵可の言葉に「また後で来る!」と黎深は急いで去っていった。
「叔父様も、秀麗にいいかげん名乗ればいいのに…」
「仕方のない子だね…」
顔を見合わせて苦笑いする。
(薬か…一般的なものは黎深叔父様の邸で耐性つけられたはずなのに、どうして?)
難しい顔をして真剣に考えている様子に、またよからぬことを考えているのだろうと思った邵可は、話題を逸らすことにした。
「春麗、お見舞いの手紙とお品が届いているよ。黄尚書からだ。君が戸部の前で倒れていたのを見つけて、医務室に運んでくれたのは黄尚書なんだよ」
と言って手紙と品物を渡される。
「私や黎深以外にも、春麗を心配してくれる人はいるんだ。もっとも、侍童だとおもっているとは思うけどね…だから、もう無茶はしないでおくれ、ね。」
「はい…」
渡された箱を開ける。
「あ、このお菓子!」
それはいつだったかの休憩時間に、今まで食べた中で一番美味しいと言ったのと同じお菓子だった。
薄い黄色の料紙に連ねられた文字は、少し前から顔色が悪くて心配していたこと、いつも仕事を頑張っていて助かっていたということ、美味しそうに食べていたお菓子を贈るから、早く元気になって戻ってきてほしい、というようなことが書いてあった。
添えられていた花は、早咲きの鷺草。
意味がわかっているのかいないのか、嬉しそうに手紙読んで、うっとりとした表情の春麗を見て、邵可は少し複雑な心境になった。
「春麗!目が覚めたって!?」
秀麗が飛び込んでくる。
寝台の横に手紙と花をそっと置いて、「えぇ、秀麗は大丈夫?」と問いかける。
「あぁ〜よかった〜〜静蘭も大怪我だし、春麗も目を覚さないし、本当に心配したのよ!一体、何をやったの!?」
「うーん、ちょっと、頼まれ仕事で邪魔が入ってうまくいかなくてね…でも、もうスッキリしたし大丈夫よ」
一つ伸びをして寝台から起きあがろうとしたら、
「まだ寝てないとダメよ!」
と手で制された。
「でも、一週間も寝ていたんでしょう?足腰弱っちゃうから、少しぐらい起き上がらないと、ね」
と正論を言って、無理矢理起き上がり、大きく伸びをする。
秀麗に怒られながら、室の中をぐるぐると歩いて、足の感覚を取り戻す。
やはり体力が落ちているのか、僅かなところですぐにくたびれてしまった。
程なくして、女官から手紙が届く。
受け取ろうとした秀麗を制して、直接受けとったのは桃色と黄色の料紙。
(桃色、って恋文じゃなんだから…)
ちょっとげんなりした表情の春麗と手紙の色を見て、邵可は察してクスクス笑っていた。
「春麗、お見舞いのお手紙なんてくださる方、いらしたの?綺麗な料紙ね」
差出人が気になるのか覗き込もうとする秀麗を見て、さっと懐にしまった。
「秀麗、人の手紙は勝手にみちゃダメよ」
邵可は「そうだね」と合わせてから
「春麗も起きたばかりで疲れるだろうから、今日はこの辺にしよう」
と秀麗を促して退室してくれた。
すぐに懐から手紙を出し、桃色の恋文みたいな料紙を開く。
一週間、本当に心配したことと、目が覚めてよかったこと、やっぱり春麗にはもっと自分を大事にしてほしい、などと先ほど聞かされた言葉が連ねられていた。
文の最後は”動けるようになったら吏部で働け”
(…)
叔父様、ごめんなさい、吏部には行きません!
と心の中で謝って、手早く料紙を畳む。
そしてもう一通の黄色い料紙を開く。
起きて読んだのがさっきなので、すぐにもらったみたいな感じがしてちょっとドキドキする。
黎深叔父様から目が覚めたことを聞いたこと、ずっと寝ていたから体力が落ちていないか心配していることが書いてある。
最後には、早く元気な姿を見て安心したいが、くれぐれも無理をしないように、と書かれていた。
仕事は厳しいけれど、いつでも優しい。
仕事がうまくできたり、帰る前にぽんぽんと叩いてくれる大きな手が懐かしくなって、少し涙が滲んだ。
前にいただいた手紙と重ねて、大切にしまう。
ふと目についた花を瓶に活ける。
鷺草ー”清純”、”繊細”、そして”夢でもあなたを想う”
果たして、どの意味なのかしら?というのと、”天寿”に向けられるにはどれも当てはまらない感じがして、春麗は首を傾げた。