白虹は黎明にきらめく−3
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出仕した後、礼部に入る前に、尚書令室を覗く。
いつも通り、悠舜が仕事をしていた。
「失礼いたします。紅春麗、入ります」
「おや、おはようございます。どうしました?」
「鄭尚書令、お約束なしに申し訳ございません。ちょっとお渡ししたいものがありまして」
と声をかける。
「どうぞ」
と促されて室に足を踏み入れる。
「あら、茈専属武官、おはようございます。ここに出ているのは珍しいですわね」
「おはようございます。春麗お嬢様…」
「だからここでその呼び方はやめてくださいな」
やりとりに悠舜がくすくす笑った。
「まぁいいじゃないですか春麗姫、今のところ私たちしかいませんし…私のこともいつも通りで」
「…わかりました、悠舜様」
春麗は軽く頭を下げる。
「ところで、鳳珠はどうですか?」
「…どう、とは…?」
静蘭をチラリと見る。
意図を察した静蘭は黙って室を出ていった。
「悠舜様に隠しても見抜かれてしまいますから…おそらく、鳳珠様は悠舜様には何もおっしゃっていないと思いますけれど…」
「えぇ、鳳珠からは、何も」
「…それを私が答えてしまっていいのでしょうか…鳳珠様が心から望んでいることは…」
懐の包みを出して渡す。
「でも、それがもはや叶わないことももちろんご存知です。だから鳳珠様は…できる限り隣の花を支える、と決められたと思います」
”思います”という表現にしたのは、本心は鳳珠の口から聞いてもらいたかったからだ。
なんとなくその意図は汲んだものの、意味を考えあぐねてから、悠舜は包みを開いた。
それを目にして、はっと息を呑んでから、そっと瞳を閉じた。
「これは…反則ですよ、春麗姫…」
心なしか声が震えている。
「わたくしの思いも、鳳珠様と一緒です。では、失礼いたします」
礼をして扉に向かって身を翻す。
「春麗姫…」
扉の前に立った時に、立ち上がった悠舜が声をかけた。
「鳳珠を、それから黎深を頼みます…」
頭を下げた悠舜に「こちらこそ」と小さく伝えて、一礼してから室を出た。