白虹は黎明にきらめく−2
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「春麗、顔色が悪いけれど大丈夫?」
「そう…」
少し体温が下がっている。
暖を取らないとまずい…
「思ったより話が長くなりそうね、お茶を淹れるわ」
と今更だが準備しながら、見えたものを頭の中でまとめていく。
「そんな状態の絳攸様でも、様子を見に行かないの?」
「うー様とリオウ殿が対応されているのであれば、大丈夫でしょう?」
「うーさま?」
「あ、仙洞令尹の羽羽様、小さい白い髭のおじいさんよ」
「あぁ…リオウくんが連れてきたわ」
ゆっくりと話しながら温かい茶器を両手で包みながら、暖をとる。
おそらく今日は時間にしてわずかだったので、酷くはなっていないようだ。
ほぅ、とお茶に向かって息をついたら、ふわりと湯気が上がった。
少し時間を稼ぐべくゆっくり話していたが、こちらの事情を知らない秀麗はあまり待ってはくれなかった。
「でも、吏部尚書も会いにこないから、旧い仲の春麗なら、絳攸様との旧い話とか…」
秀麗が話の続きをしてきた。
少し迷ったが、伝えることにする。
「わたくしより、適任者がいらっしゃるわ…吏部尚書は絶対に絳攸兄様には会わない。そのかわりに…叔母様がいらっしゃるわ」
「叔母様…」
秀麗はピンと来なかった。吏部尚書の奥方だろうか、それとも玖琅叔父様の奥方だろうか…はたまた、まだ知らない父の姉妹がいるのかさっぱり検討がつかない。
(誰って聞いてくれたら答えるのに、こういう時は聞かないのね…)
春麗はクスリと笑って、お茶を飲み干してから継ぎ足した。
「そこまで、春麗が絳攸様を助けに行かないというのは、どうして?」
「あら、父様から聞かなかったの?」
「えっ?」
「聞いてないならいいわ。そうね…それは私の選択よ。叔父様がこうしたのも叔父様の選択だし、わたくしはその意味をわかっていたから、それを踏まえてわたくしも選んだ。もちろん、今となっては絳攸兄様もわかっていらっしゃると思うし、わたくしの選択も理解してくださっていると思うわ」
答えになっているようでなっていない、そして邵可に話したことと違うことを春麗は話した。
この問いの答えは、秀麗が御史だから言えない本音だった。
秀麗は納得がいかないという表情をしている。
「ごめんなさいね秀麗、黙っていて。でも、同じ双子でも、あなたとわたくしは選び取るものが違うのよ。わたくしの最優先は、紅家でも叔父様でも絳攸兄様でも…ましてや王様でもない、ということだけははっきり言っておくわ」
秀麗の瞳に、怒りと悲しみが浮かんだ。
「こういう形で、ということをわかっていらしたかは、わたくしにはわからないけれど…叔父様にはそんなことは全てお見通し。それを分かった上で、あの対応を取られたのよ。そうね、一言で言うと、叔父様は”天つ才”って言われているわ。」
春麗は小さくため息をついた。
”天つ才”なのに、どうして”情”に関してはうまく行かないのか…
全ての才があるのに、唯一、人との関係性がうまく行かない。
誰よりも…愛情深いのに。
「春麗…どうして?どうしてそこまでわかっていて!」
「秀麗には…理解してもらえないかもしれないわね。えぇ、わかっていても、できることとできないことがあるのよ。わたくしは、わたくしの意思で、選択をしているの。そう、叔父様に関しては、初めから何もできないことがわかっていたわ。そして、あとはわたくしの意思で、絳攸兄様に何もしないことも選択した…叔父様も絳攸兄様も大切な人だから、とても辛かったけれど…でもそれを選んだのはわたくし自身なのよ」
秀麗はしばらく考えてから口を開いた。
「一つ教えて…どうしてその選択をしたの?」
春麗は秀麗をじっと見た。
「どうして?そうね…これがわたくしの選んだ…わたくしの人生なのよ。初めに言ったでしょ、あくまで双子の話に限る、って。だから話はここまで」
有無をいわさない春麗の様子と情報量の多さに秀麗はよろよろと立ち上がって、侍郎室の扉の前に立った。
「秀麗、これだけは言っておくわ…叔父様は秀麗のことが大好きすぎてね、秀麗に名乗れなかったのよ。紅家から父様を追い出した悪者のおじさん、って思われている、って信じていて、秀麗から拒絶されるのが嫌で…」
「そんな!」
「ふふ。でも本当にそう信じているのよ。だから、きっと、いまでも会いに行っても逃げ回ると思うわ。”天つ才”の叔父様だから、逃げるのもうまいでしょうね。そんなことしてても、秀麗が大好きなのよ。その証拠にね、今や名産の紅州蜜柑、あれは秀麗が小さい時に与えたのに喜んでもらえたのが嬉しくて、叔父様が品種改良したのよ。喜んでもらいたい一心でね…」
秀麗の顔が少し歪んで、唇をかみしめて出て行った。