白虹は黎明にきらめく−2
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その日の夜、なんとか溜まった仕事を片付けて、春麗は鳳珠と共に帰邸した。
口数少なく食事を終えたあと、「少し仕事をするから先に休んでいろ」と鳳珠に言われて大人しく従う。
湯浴みの後に、文を拾ったときに思いついたことを実施すべく、生成色の手巾に刺繍を始めた。
(わたくしが黎深叔父様や鳳珠様にして差し上げられることは、本当に小さなことでしかない…)
沈みがちになるけれど、暗い気持ちで刺してはいけないと、楽しかったことを思い浮かべながら、心を込めて針を刺す。
あのあと、悠舜のところに一瞬顔を出して知りたかったことを聞けたが、鳳珠に関してはまだ聞けていない。
まずはできるところまでと熱中していたが、随分経ったことに気がついて回廊に出る。
窓から庭を見ると、月は中天をこえていた。
そのまま、隣室に向かい、そっと声をかけて室に入る。
(お文を書かれていたのね…)
机案の端に反故紙が積み上がり、真ん中にはかなり長い文が置かれていた。
鳳珠は疲れと悲しみの混ざった表情で、顔はそのままに視線だけで春麗の姿を認めた。
春麗はすっと鳳珠の横に立ち、そのまま鳳珠の頭を優しく抱きかかえて髪を撫でた。
「春麗、わたし、は…」
いつになく弱々しい声で鳳珠が口を開いたが、その後の言葉が続かなかった。
春麗は少し身体を離して、鳳珠の頬に手を当ててそっと顔を自分に向けて上げてから軽く微笑む。
「子供のような…不安げなお顔なさって…」
「春麗…」
「あなたに…ついていくと決めています。それがどんな道でも…だから鳳珠様、そんなお顔なさらないで。そして、わたくしに何かできることがあれば、お手伝いさせてくださいませ」
鳳珠は無言で春麗の腰に腕を回して抱きついた。
春麗はあやすように再びそっと頭を撫でる。
鳳珠が少し震えているのは泣いているためだったが、昼間とは違い、優しい涙だった。