白虹は黎明にきらめく−2
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回廊を歩き、誰もいない場所まで来ると、鳳珠は足を止め、仮面を外した。
白い頬に涙が次々と伝い落ちた。
「柚梨…私たちは、約束したんだ。昔…ずっと昔、黎深とー」
飛翔も文仲も、言葉にはしなかったが同じ思いだった。
「”黎深、お前は兄のために国試を受けただけで、出世なんぞ興味がないというが、悠舜が中央に戻ってくるまではちゃんとやれ。そのくらいお前にもできるだろう”と…あの時、確かに黎深は頷いたんだ。”いいか、貴様に言われたからじゃない、悠舜のためだからな”と言ってな…」
その時のことを昨日のことのように覚えている。
悠舜が帰還し、全てはこれからというときになって…
「なぜ…」
柚梨には慰めようもなかった。
春麗を見たが、とても悲しそうにして首を振っただけだった。
その時、鳳珠の袂から何かこぼれ落ちた。
くしゃくしゃに丸められていたが、文のようだった。
それを、柚梨は拾った。
鳳珠は黙っている。柚梨は意を汲み、丁寧に皺を広げて、目を通した。
どうして今日、鳳珠が黎深の元を訪れ、激昂して詰め寄ったのか、柚梨は理解した。
黄家直紋 ”鴛鴦彩花” の判が押されたそれは、黄一族にとって絶対服従を意味する命令。
”頃合いを見て戸部尚書を辞し、ひとまず黄州に帰還し静観せよ”というその書状を、鳳珠は柚梨の手からむしりとり、丸めて投げ捨てた。
…鳳珠もまた、選んだのだ。
家を捨て、朝廷に残り、最後まで悠舜のわずかな味方となることを。
そして、悠舜を選ばなかった黎深との訣別を。
それを見た春麗は、そっと投げ捨てられた文を手に取った。
綺麗に伸ばしてから畳んで、懐に入れた。
鳳珠が落ち着いた頃合いを見計らって、言った。
「戻りましょう、戸部へ」