白虹は黎明にきらめく−1
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礼部での仕事を終えて戸部に向かって歩く。
「おや、お姫様じゃない?」
横から出てきた凌晏樹に声をかけられて、春麗は立ち止まり立礼した。
「そうだ、この前、君の叔父さんと悠舜がものすごい愛情たっぷりの痴話喧嘩をしていたよ?知ってる?」
「いえ、存じません」
「そうなの?叔父さん怒ってなかったんだ。その後にボクと話したんだけれど、ボクがいったことに、ものすごく怒ってたんだよね〜」
(これは”何?”って聞かせたいということでしょうね…ならば…)
「そうなんですか。では失礼」
軽く頭を下げて通り過ぎようとすると、
「ちょっと待ってよお姫様、せっかくいいこと教えてあげようと思っているのに」
「凌黄門侍郎にとっての”いいこと”がわたくしにとって”いいこと”とは限りませんし、何か教えていただきたいことも今はございませんわ」
「キミの叔父さんのことでも?」
「えぇ」
クスクスと晏樹は笑う。
「やっぱりお姫様とお嬢さんはだいぶ違うね。お嬢さんだと交換条件を出して、ボクから何か聞こうとするのに」
「そうですか。あいにくわたくしには必要ないものですから」
「そう言われちゃうと自分から言いたくなっちゃうな。キミの方がやっぱりお嬢さんより一枚上手だね」
「…」
相手をすると足元を掬われる、と無言無表情になった春麗に、やっぱり面白い、と晏樹は笑う。
「人って聞かれないと言いたくなっちゃうものだね。キミの叔父さん怒らせた理由、話しちゃうよ。悠舜と宰相を”降りろ””降りない”って喧嘩してたのを指摘した挙句、悠舜の出自について知らないのか、って聞いたんだよね。叔父さん、知らなかったみたいだよ。びっくりしちゃった」
「そうですか」
「お姫様は知りたくない?」
「どんな鄭尚書令でも、ここでは官吏である今のわたくしにとっては尚書令の鄭悠舜様です。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
気配を消して影から見ていた者が息を呑んだのがわかった。
これ以上の長居は無用だ。
「先を急ぎますので、失礼いたします」
きっちり礼をとってから、春麗は戸部に向かって再度歩き出した。
その際に、気配のしたところでチラリと視線だけ送って。