青嵐の月草−2
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「黄尚書、すみません。府庫から呼ばれたので行って来てもいいですか?」
府庫の侍童から届けられた文を見て、春麗は鳳珠に聞いた。
「それなら、ついでにこの本を返してきて、続きを二冊借りて来てくれ」
「かしこまりました、行ってまいります」
”話があるから来て欲しい”しか書いていなかったけど、一体なんなのかしら、父様…
いつもいるあたりに顔を出すと、すぐに気がついて邵可は立ち上がって奥へと向かった。
春麗はついていき、扉を閉める。
「礼部でも活躍しているみたいだね、黎深が嬉しそうに朝議のことを話してくれたよ」
邵可がお茶を用意するのを制して、代わりに手を動かしながら答える。
「そう言っても、進士時代の課題を元に、ある程度は魯尚書が考えられていたことなので…でも、あの”主上と側近の私情まみれの女人国試”に大義を持たせるには、ここまでやってようやくはじめの一歩、という感じですからね。合格者が秀麗一人だったら、継続は十年後までなかったでしょうね。私情で動いているだけですもの」
「相変わらず厳しいね」
邵可は苦笑いしてお茶を受け取った。
「でも、父様もそう考えるでしょう?」
「…そうだね。一人の”劉輝様”、として見た場合と、”王”として見る場合は視線が異なるからね。どう選ぶかは、自由だ」
「わたくしの答えは決まっていますわ。それが紅家と反したとしても…」
「それでいいよ、春麗。君が嫁いで行ってから、ようやく私も君の気持ちが少しだけ理解できるようになった気がする」
「それは…ありがとう、父様」
お茶を飲みながら府庫の前の庭院を見る。
初夏の日差しが差し込んでキラキラ光っていた。
「それで父様、お話は?」
「…珠翠が…いなくなった。それを君には伝えておこうと思って。この前、珠翠に”何かあったら私か戸部へ連絡を”って言っていたんだって?珠翠、すごく嬉しそうに話していたよ。あの子は私のもう一人の娘だから、私も春麗がそこに気がついてくれて嬉しかったのだが…」
苦虫を噛み潰した表情で言う。
「おそらく、行き先は縹家…」
「知っていたのか?」
「この前、後宮に仕事で行ったんです。その時に、あまりにもやつれて様子がおかしかったから、ちょっと見て…隻眼の男と一緒にいませんでしたか?」
邵可は目を閉じてふぅ、と息を吐き出した。
肯定と受け取り、瞳を閉じる。
「わかっていても、何もできませんでしたわ。父様に叱られても仕方ありません」
「いや、私も同じなんだよ。その男に、”お前には何もできない”と言われた。あの子も大切な娘なのに…」
「でも…きっと、そう遠くないうちに、また会えると思いますわ。秀麗には黙っておいた方がいいわね。それ以外に、変わったことはありませんでした?」
邵可は少し目を見張る。
「全く、君はどこまで…藍将軍が辞したよ」
「えぇそれは…実は、宋太傅から声がかかって主上と藍将軍の勝負に立ち合わせていただいたんです。似たような立場で心配なのは絳攸兄様ですわね。自分で解決しないとどうにもならない、と伝えたのですけれど、わかっていてもどうにもできないみたいで。もし父様に相談が来たら、お願いね」
「さぁ、どうだろうな…過去に一度相談に来られた時があったけれど、その時は藍将軍に頼まれたんだ」
「わたくしからは直接伝えているんです。だから、今から父様に相談を、とは言わないわ。それが不正解だったとしても…もし頼んで父様が相談に乗って解決したとしても、絳攸兄様が自身で判断を下さないと、また同じことを繰り返すと思うの」
邵可の考えも全く同じだった。
「彼の不安は…彼自身が乗り越えないといけないものだね。黎深も…」
「絳攸兄様は誰か支えてくれる人がいたら乗り越えられるかもしれないけれど、それは黎深叔父様に近い父様やわたくしじゃないと思うの」
「そうだね。君はこの先をどう見た?」
春麗はちょっと驚いた表情をして、少し笑った
「父様、それをわたくしに聞いちゃうの?ちゃんと見てはいないけど、小さな嵐と大きな嵐が来ると思うわ。でも、小さな嵐は紅家にとって…わたくしにとってもある意味、大きな嵐になると思うわ」
「…」
「心配しないで。もう黎深叔父様とは話してあるから。でも、たとえ何も変わらなくても、ギリギリまで足掻いてみようとは思っているけど…」
「無茶はしないと約束してくれるかい?紅家のことで君に何かあったら、私は鳳珠殿に合わせる顔がなくなってしまう」
「えぇ…それは、もう…」
心配する鳳珠の顔が浮かんで、春麗は少し目を伏せた。