青嵐の月草−2
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「わぁ、すまないのだ…!」
劉輝はばしゃっと悠舜の茶杯に袖を引っ掛けて倒してしまった。
大丈夫ですか?と控えていた静蘭が出てきて、懐から手巾を取り出し、机案を拭く。
「あにっ…静蘭、この手巾は?」
小さいながらも見事な手巾の刺繍に目を止める。
あたふたと机案をふいていた静蘭はひと段落したところで、
「これがどうかしましたか?」
と聞いた。
「刺繍が見事なのだ。余はいま刺繍に凝っているので見せてほしい」
(主上が刺繍…)とは思ったが、そういえば櫂瑜経由で何やら秀麗に渡していたのを思い出し、静蘭は窓の方へ向かい、外に一度絞った手巾を持って戻って劉輝に渡した。
「これは…有名な店のものか?」
「いえ、違いますが、なんでです?」
「この前、登城してきた黄尚書と紅春麗の風呂敷の刺繍が見事だったから見せてもらったのだ。柄は違ったが同じ感じで…静蘭のこれも近い刺し方なのだ。黄尚書たちの方が難しそうだったが…」
劉輝はいろいろな角度から紫蔓草と蘭の刺繍を眺めながら言った。
ことの顛末がわかった悠舜はニヤリと笑って静蘭の答えを待つ。
「あぁ、それは春麗お嬢様が刺したものでしょうね。私のこれも随分昔に春麗お嬢様からいただいたものです。お嬢様の刺繍の腕前は、その辺の職人よりよっぽど上ですよ」
「そうなのか…!春麗は刺繍が得意なのか!」
文武両道、どうやら他にも色々できるらしい…むむむ恐るべき紅春麗、と小声で口に出しながら衝撃を受ける。
「ぜひ教えてもらいたいが、いやそれでは、秀麗に悪いか…」
劉輝は一瞬目を輝かせたが、秀麗のことを思いしょんぼりとした。
「この静蘭の刺繍の頃からすると、春麗は相当腕前が上がっているということだな…あれは本当に見事だったのだ」
「ここ何年かは忙しくて刺繍どころではないとだいぶ前に聞いていましたが、最近は時間が取れるようになったんでしょうかね?」
悠舜はそれを聞いて少し首を傾げた
「春麗殿はたぶんそんな余裕はないはずですよ?礼部の仕事も増えましたし、戸部ではいつも黄尚書と景侍郎と残業や泊まり込みもしてますからね。多分無理して時間を作って黄尚書のために刺したのでしょう」
静蘭は少し面白くなさそうな表情をしたが、劉輝はそれに気づかず
「部下に刺繍をお願いするとは、黄尚書は職権濫用なのだ。やはり余は教えてもらいたいのだ」
とふんすと鼻を鳴らして意気込んだ。
悠舜は苦笑いして口を開く。
「恐らく、春麗殿は主上が頼めば受けると思いますが…黄尚書が許さないでしょうね」
「なぜなのだ?」
「仕事であればやむなし、というところでしょうけど…あぁ見えて愛妻家ですから、主上と二人きりになるのは許さないでしょう」
劉輝がきっちり固まること、鐘三つ分。。。