はじまりの風−3
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秀麗が連れ去られたことは周りの動きで分かった。
どうやら、毒の混入は香鈴によるものだったらしい。
侍童の格好から動きやすい服に着替える暇すら惜しく、後宮でさっと情報を集めてから、刀を引っ掴んで外朝に戻る。
香鈴…確か、秀麗が菊花紋様の刺繍をしていたと言っていた…
年齢は孫ほど違うと思うが、宮城で”菊花の君”といえば、彼しかいない…
三師の室がある棟に走っていき、様子を伺う。
「あなたを見ていると、遥か昔を思い出しますよ、清苑公子」
(清苑公子…流刑になった主上の兄上?)
チラリと覗く
(!!せ、いらん…)
何かある、とは思っていた。
でもたった一人の家人に向かって力を使いたくなくて、探ることも見ることもしなかった。
(・・・あの時の話がここに繋がるのね、ということは霄太師は茶太保の目論見をわかっていた、と…最後まで聞いていれば防げたかもしれないのに!)
考えながら耳だけは集中させる。
「霄の上に。今の望みはそれだけです」
それは知っていた。
子供の頃に、まだ調整がうまくいかないときに、見てしまっていたのだ。
彼は、霄大師に殺されると。
(今が、その時か…)
知っていたのに、秀麗を守ることができなかった。
力の限界を感じる。
もっと解放して、見たくもないものまで全て見ていかなければいけないのか…
(まずい!)
撹乱作用のある香の香りが仄かに漂う。
顔に布を巻き付け、呼吸量を減らした時に、煌めく刃が茶太保の首に刺さり、静蘭は周りに殴打されて倒れた。
ぱっと部屋に入り、死角から兇手を数人打ち据えていく。
兇手の標的が自分にうつる。
暗がりの中、飛び回る姿を茶太保は認め
「なぜ…」
と言って、兇手たちを一度止めた
「香鈴からね、足がついたのよ」
「…香鈴、だと?あれには何も言ってはおらぬ!」
フッと春麗は微笑う。
「あんなに頭がいいのに馬鹿だね、茶太保。あなたの野望に気がついたのよ。あなたの役にたとうと…香鈴はね、あなたを愛していた。秀麗たちと刺繍をしていた時に刺した柄は、菊花模様だったのよ」
「…」
「茶太保、あなたの目論見は、あなたの良心によって崩れたというわけですわ」
茶太保は首を振った。無意識に懐に差し入れた指が、菊花刺繍の手巾に触れた。
(香鈴…)
だが、ここで引くわけにはいかない。
「お前の腕でもこの人数は難しかろう、無茶をするでない」
と声をかけた。
「茶太保、わたくしも小さい時から優しくしてくれたあなたが大好きでしたわ。ただ…それでも、わたくしは、秀麗に手を出したあなたを許さない…」
右手の刀を持ち直し、左手を懐に入れ、銀の花簪ーだいぶ花の減ったそれを取り出し、先端の柵を口で外す。
それは、引かないことを茶太保に伝えることとなった。
「猶予は与えた。お前がそれでも私に挑むなら、容赦はしない。やれ!」
兇手がまた動き出す。
構えて飛びあがろうとしたところを、どこからか当身を食らわされて「ぐっ」とうめいて膝をついた。
そして、背後から顔を覆っていた布を外し、何かを口の中に入れられ、吐き捨てられないように後ろから腕を回されて口元に覆われた。
程なく、春麗はガクッと膝をついて倒れた。
同時に、ヒュッと僅かな風切り音がしたと思うと、5人ぐらいの首が落ちた。