青嵐の月草−1
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春麗は珀明と話しながら歩いていた回廊である男に目を向けた。
正直、とても会いたくない相手ではあるが、こちらに向かってくるので、少し手前で立ち止まり礼をして過ぎるのを待つ。
が、残念ながら男は立ち止まった。
「顔を上げていいよ、お姫様。君はきちんと礼ができるのだね」
(君は、って誰と比べてんだよ…)
珀明は心の中で尋ねるが、声には出さない。
春麗は何も言わず顔を上げて、軽く会釈をした。
「ねぇ、お姫様は僕に聞きたいこととかないの?」
「…あいにく、今は特にございません」
「ふぅん、つれないね。お嬢さんはいろいろ聞いてくるのに」
「そうですか…彼女は素直ですから…揶揄うのはほどほどにしてあげてくださいね」
「そうだね、でもこの前は”本当”を教えたよ?お姫様は知りたくない?」
ふと、男の背後から、冷たい空気を纏った男が近づいてくるのが目に入った。
ほんの少し視線をそちらに向けてから答える。
「…結構です。彼女とわたくしは違いますから」
「そう。今は私と話しているのに、皇毅が気になるとは…妬けるね」
春麗は視線を戻したが、何も答えなかった。
「お姫様が何か知りたいことがあったら、いつでもボクが教えてあげる」
そう言い残して、凌晏樹は去っていった。
「おい、春麗」
珀明が声をかけようとしたが、歩いてきた葵皇毅に聞こえると思い、軽く首を振って再度礼をとって待つ。
これまた、非常に残念ながら、春麗の前で立ち止まる。
「あのろくでなしに声をかけられたか?あいつに関わるのはやめておけ」
「お声はかけられましたが、大した話はしておりません。でも、お二人は仲がよろしいのでしょう?先日も一緒にいらしたぐらいですし」
「仲がいい?ふん、そんないいものではない。軽佻浮薄で大嘘つき、人を煙に巻く、口八丁手八丁、ヘラヘラしながら肝心のことはしゃべらない、いつもどこかをほっつき歩いていて仕事をしている姿をついぞ見ない。どこをどう切っても適当の二文字しか出てこない。性格はあいつの髪と同じでどこもかしこもふわふわくるくる軽くて捉え所がない上に曲がりまくっている。私の人生の中で、あの男ほどのろくでなしはいないがな」
「「…」」
立て板に水のような酷評に、呆気に取られたともいうが、春麗も、そしてよくわかっていない珀明も反論はしなかった。
「ーそのくせ、あいつは私より上手だ。そういう男だ。あいつを手ヅルにしようなどと、トドに己のトド人生を反省させるぐらい無駄な話だ。紅秀麗にも同じことを言ったが、まぁおそらく…あいつと違ってお前はあの男を利用しようなどとは思わないだろうけどな、紅春麗」
「どうして、わたくしにその話を?」
「さぁ、な。最初で最後の忠告だ。ヤツを見たら逃げろ、ふらふら寄って行くな。何かもらったらつき返せ。私のように愉快痛快不愉快な人生を送ることになるぞ」
「わ、かり…ました。ご忠告、ありがとうございます」
春麗は綺麗に礼をとり、珀明がそれに合わせた。
皇毅はそれには反応せず、歩き出したがすぐに立ち止まった。
「もう一つ、忠告をしてやる。当面、後宮には近づくな」
言い残して去っていった。
春麗は黙ってその後ろ姿に一礼した。