はじまりの風−3
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数日は大きな動きもなく、またいつも通りの生活に戻る。
侍童仕事に夜周りと流石に疲れが溜まって、夜に室で椅子に座りうとうとしていたら、「春麗、いる?」と外から声がかかった。
秀麗にここに入られると、仕掛けが増えると思って「今散らかっているし、貴女の方が広いから、わたくしがそちらのお部屋に伺いますわ」と言って、室をでた。
「どうしたの?珍しいわね、あなたから来るなんて」
「ちょっと、話がしたくて」
「わかったわ、先に戻って少し待っていて。いいものを持っていくから」
戻って、しまってあった水瓶と茶道具一式を出し、水屋に行って水を入れて銀の花で確認した後、湯を沸かして茶葉も再度確認してから、そのまま秀麗の室に行く。
「遅くなったわね。お茶は私が淹れるわ。いい茶葉をいただいたのよ」
(今日、黎深叔父様のところで飲んだら美味しかったから少しもらってきただけだけどね)
「春麗、ありがとう。あらすごくいいお茶じゃない、こんな高級なもの、どこでいただいたの?」
「え…?ま、まあいいじゃない。ところで、話って何?」
慌てて話を変える。
「あ、あのね、最近変なことが多くて」
「変なこと?」
「ものがなくなるのよ。それで、しばらくしてから、新品で戻ってくるの」
「…新品?」
「そう。この前は枕元に置いていた香袋がなくなったんだけれど、しばらくしてから藍将軍が下さって。それから、硯箱がなくなっていたんだけれど、李絳攸様から”しっかり励め”と見事な螺鈿細工の硯箱が贈られて」
黙っていたのを勘違いした秀麗が
「あ、藍将軍は左羽林軍の将軍で、李絳攸様は劉輝と一緒に受けている勉強会の師なの」
と解説をしてくれた。
「…いいんじゃない、いただいたんだから、あまり気にしなくて」
「そ、そうよね??わかったわ」
前向きなのが秀麗のいいところだ。彼女は、それでいい。
「それから…最近、静蘭に会った?」
「静蘭?そうね、一度会ったかな」
「ねぇ、その時、少し様子がおかしくなかった?なんか最近、悩んでいる感じなのよ」
春麗は右斜め上を見ながら少し考える。
確か子供の頃に見た静蘭の先は、そんなにおかしなものではなかったはずだ。
だが、何か引っかかる…
「春麗?」
「あ、あぁごめんなさい、その時のことを思い出していたのだけれど…特に心当たりはないわ」
秀麗は明らかにがっかりした様子で返した。
「春麗もわからなかったかぁ。静蘭に聞いたんだけれどね。”たいしたことではない”って言われちゃたのよ。私たち、静蘭には積もりに積もった借りがあるから、頼ってほしいと言ったんだけれど」
「まぁ、必要だと思ったら話すんじゃないかしら。静蘭は私たちより少し大人だから」
「そう、ね…」
それから、劉輝が子供の頃に起こったことが原因で暗闇が苦手で一人で眠れないこと、父様が幼い頃に劉輝の面倒を見ていたこと、珠翠が刺繍が苦手なことなど、秀麗の話を聞いていたが、香鈴に大切な方がいて、まではよかったが、菊花模様の刺繍をしていた、と聞いた時はお茶を吹き出しそうになった。
(まさか、ね…)
お茶の片付けをする間に、近くにあった茶筒が気になったので、開けて香りを嗅ぎ、さっと袂に隠す。
「そろそろ主上が来られるかしら?お暇するわね。また明日」
「そんな、急に帰らなくても」
「そういうわけにいかないでしょ?、おやすみなさい」
室を出て少し歩いたら、こちらへ向かってくる主上がいた。
礼を取り「お渡しするものが」と囁く。
下に茶器一式を置き、懐から茶筒を取り出す。
「秀麗の室にありました。明らかにおかしな香りがしますので、ご確認を。それから…おそらく今晩のお茶がありませんので、わたくしとすれ違った際に、気に入ったようだから渡してくれと言われたと言って、こちらのお茶を。先ほど飲んでいますので、問題ありません」
劉輝は黙って頷き、袂に茶筒をしまって歩き出した。
どうやら、必要以上にわたくしとは接点を持たないつもりらしい。
(それでいい)
面倒なことは避けたい。
床の荷物を取り、自室に戻った。