序章
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「…で、何故木に登らねばならんのだ。黎深、悠舜は足が悪いんだぞ」
「大丈夫だ、なんのために私とお前がついている?それにちゃんと登れたじゃないか、なあ?悠舜」
「ええ…自分が木に登れるなんて思いませんでした。ありがとう黎深」
「しっ そんなことよりあれを見ろ」
木の下の大きな邸に、家族と思しき5人がいる。
両親と、小さい女の子が二人。
兄か家人か若い男が一人。
いかにも、幸せな貴族の一家団欒風だ。
「これはほほえましくも美しい光景ですね」
「そうだろう?かわいいだろう!?なんて愛らしい…」
「あぁっ転んだ!」
「乗り出すなバカ!」
ボキッ
「ああーーー」
バキッ
どさっ
「大丈夫?」
ん?
「いたいのいたいの、とんでけー、する?」
悠舜のほっぺたに、小さい手が添えられる。
「大丈夫ですよ、ほら。この二人が庇ってくれましたから」
(秀麗?)
黎深、と呼ばれた男がガバッと起き上がる。
「よろしかったらあちらでお茶をと主人が申しております。」
兄と思っていた男は家人だったらしい。
「足が痛いの?私の肩に捕まって」
この家の娘の一人が、足の悪い悠舜の手を取った。
「大丈夫です、重くないですか?」
小さい女の子の肩に手を乗せて、どっちがひっぱているのかわからない姿で悠舜は歩く。
「悠舜め〜〜」
「黎深さまもどうぞ…そちらの方も」
チラリと一緒にいた鳳珠を見る。
大概、鳳珠の顔を見たら放心するか倒れるかなのに、この家人はチラリと見ただけで特に反応はしなかった。
「なかなか見どころのある少年だ。先に行くぞ」
「待て!鳳珠!わ、私はまだ心の準備が…」
黎深はあれこれ言っていたが、声がかかるとすっ飛んでいった。
「兄上のご家族だったのですね…彼が幼女趣味でなぁったとわかって安心しました」
”兄上”とすごい勢いで駆け寄って尻尾を振っている見たことのない黎深を見て、鳳珠と悠舜は驚きを隠せなかったが、とりあえず状況を把握した。
「おまんじゅうはいかがですか?」
”秀麗”と呼ばれた娘が悠舜に饅頭を渡す。
途端に黎深の殺気が悠舜の首筋にに刺さる。
悠舜が声をかけようとした時に、もう一人の同じぐらいの少女が「どうぞ」と鳳珠に饅頭を手渡した。
そして、鳳珠をじーっと見つめる。
悠舜は不思議に思ったが、子供でも鳳珠の顔は通用するのだな、ぐらいにしか思わず、秀麗に向かって
「お嬢ちゃん、あそこのおじちゃんもお饅頭が食べたいみたいですよ」
と黎深を指さす。
秀麗はもう一つとり、トコトコと歩いて「はいどうぞ、おじちゃん」とにっこり手渡す。
速攻で秀麗に絡む黎深を見て、二人は呆れ返りながら笑った。
「君は、秀麗ちゃんの妹?」
鳳珠が尋ねると、コクっと頷いた。
「私は鳳珠。こちらは悠舜だ」
「紅春麗です」
小さいこえで自己紹介をして、綺麗に礼をとる。
「小さいのにえらいね」
悠舜が褒めて頭を撫でる。
黎深に絡まれた秀麗は静蘭少年によって黎深から引き離され、母親と家の中へ戻って行った。
それを見ていた二人に、小さい声で告げる。
「この家は、秀麗を中心に回っていますから」
「えっ?」
見た目は秀麗と同じくらいの年頃なのに、その外見とあまりにも異なる大人びた発言に二人が驚いたところを、
「本当によく来てくれましたね、実は友達を連れてきたら、家に入れてあげるよと言っておいたのですよ」
と”兄”が寄ってきて話かけたため、意識が逸れた。
”友達”
の言葉に二人は振り返る。
その時、鳳珠をずっと見ていた春麗の視線が悠舜に映り、きっちり10秒見つめた後、ポロポロと泣き出した。
黎深がすっ飛んできて、「春麗!」と肩を掴み抱き上げた。
「言いなさい、春麗!!」
ゆさゆさと春麗を揺する黎深に、これは異常事態と鳳珠と悠舜が止めに入る。
「やめろ黎深、どうした?」
「怪我しちゃいますよ、落ち着いて黎深」
ぽん、と邵可に肩を叩かれて、ハッとなった黎深は春麗を地面に下ろす。
春麗はもう一度悠舜を見て、
「うわ〜〜〜〜〜〜ん」
と声をあげ、鳳珠に抱きついて泣きじゃくった。
鳳珠はいきなり抱きつかれて面食らったが、あやすように抱きかかえて頭を撫でてやる。
「何があったかわからないが、大丈夫だ、落ち着け」
黎深と話すときとは違う、数段甘い声で伝え、頭を撫でてあげると少しずつ落ち着いて、そのまま眠ってしまった。
「ありがとう。すまなかったね」
邵可は春麗を受け取って、抱きかかえる。
「驚いたよ、この子は滅多に泣かないんだ。泣くことはあっても、絶対に声を上げて泣くことはしないんだ。せいぜい涙を浮かべるか、流すかぐらいでね」
「兄上…!兄上はご存知ないのですか?であれば、それはこの家の中だけの話です」
先ほど、兄に懐いていた黎深とは全く異なる低い声で告げたことに、二人はまた驚く。
「兄上では春麗の心は守れない…春麗はうちに居させます」
「黎深、それは認められないよ。春麗の父親は私だ」
「だからです。ここだと秀麗を中心に回さざるを得ない。まだ一人で調整ができない今、ここにいることは得策ではない」
(それは否定できない…生まれた時から大人みたいな春麗には、子供らしく甘えられる場所がない)
邵可はわかっていた。
だが、手放すことはまた別だった。
「君はまだ進士で忙しいだろう?配属して少し落ち着いてから、週に何回か、邸に通わせるのではどうかな?」
「・・・わかりました。」
黎深は気が付いていた。
悠舜を見て何故大泣きしたか、なぜ泣きついた相手が鳳珠だったのかを。