紅梅は緑風に乗って香る−3
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「どうだ?」
湯浴みから戻った鳳珠は、春麗の室の前にいる瑞蘭に声をかける。
「少し前まで泣いていらしたようですが、今はお休みになられています。ただ…うなされていたようですので、灯りを一つ足しておきました」
「そうか…」
瑞蘭は少し迷って口を開いた
「御館様…姫様を泣かせるようなことはなさらないでくださいませね」
「するわけ、ないだろう」
「でも、泣いていらっしゃいましたよ…」
それだけ言って、瑞蘭は頭を下げた。
鳳珠は小さくため息をついて、春麗の室に入る。
寝台横の小机に灯りを置いて腰掛ける。
こちらに背を向けて横になっている春麗の頬に涙の筋がいくつかあった。
(何を考えている…)
大方、先程の百合からの文が原因だろう、とあたりはついている。
が、ひっそり泣くほどのことは書かれていなかった。
春麗は苦しそうな顔をしてぎゅっと抱えていた掛布を力強く握っていた手をはなし、前に伸ばす。
「行か、な…で、…ほ…さま…」
とさり、と腕をおろし、「いや…」と小さく言いながら涙を流す。
昔はともかく、今は誰より愛しているのは春麗だし、春麗以外の姫を愛する気も娶る気もさらさらない。
黎深に揶揄われるのは腹立たしいが、百合への感情は自分も気がつかないうちに、とっくの昔に昇華していた。
(どうしたら、伝わる…)
春麗はまた小さく「いや…」と言って、首を振った。
パサっと掛け布をめくり、横たわって後ろから抱きしめる。
「どこへも行かない…私には春麗だけだ。お前と共に生きる…」
耳元で囁いて、ぎゅっと腕に力を込めた。
起きてしまうかもしれない、と思ったがそれでも構わなかった。
「だから春麗も私の腕の中にいてくれ…愛している…」
遠くで鳳珠の声が聞こえた気がした。
先程まで吹雪の中にいたのに、背中から柔らかい光に包まれて暖かくなってくる。
「ほう…じゅ、さま…」
身体の力がふっと抜けて、柔らかい呼吸に変わった春麗に、ほっと胸を撫で下ろす。
もう一度ぎゅっと抱き直して、鳳珠も呼吸を合わせて眠りについた。