紅梅は緑風に乗って香る−3
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「貴様ら…」
青筋を立てて扇をプルプルと震わせる男が一人
「あら、叔父様?」
鳳珠の胸に寄り添ったまま、春麗はチラリと見る。
「私の春麗から離れろ」
「春麗は貴様のではない、私のだ」
「…叔父様、鳳珠様のお室にまでいらっしゃるなんて…また勝手に入られたのでしょう?いつも正面からいらしてください、って言っているのに」
春麗は盛大にため息をついてみせた。
「で、なんのお話ですか?」
「あ、いや…」
「「・・・・」」
「・・・」
「叔父様?お話がないのなら…」
「あ、ある、あるよ春麗!」
「なんでしょう?」
文を一通懐から出す。
「百合からの文だ」
春麗は黙ってそれを受け取った。
確かに、自分宛になっているが開封されている
「黎深叔父様…相変わらず百合叔母様からの文は読んでしまうのですね。ここに”黎深でも開封しないこと”ってわざわざ書いてあるのに」
「お前、酷いな…」
春麗とともに鳳珠も驚いて呆れてぼそっと呟いた
「フンっ」
春麗はぱらり、と開いて文面に目を通す。
その様子を黎深と鳳珠はじっと見ていた。
初めは厳しい表情をしていて、そして最後は少し嬉しそうに顔を赤らめる。
「どうした?」
少し訝しげな鳳珠に文を渡しながら、黎深に向かって
「叔母様にお礼をお伝えしてくださいな。文の返事は明日にでも書いて、影の方にお渡しします。叔父様に渡すと読まれてしまいますからね」
「よ、読まないよ?」
「信用できません」
この世の終わりのように打ちひしがれる黎深を面白そうに鳳珠は眺めて、文に目を落とした。
「叔父様、もうすぐ叔母様が貴陽に来られるようですから、その時はお会いしたいですわ」
「帰ってきたら知らせる」
「えぇ、その時にお邸に伺うので、今日はもうお帰りになってください。お帰りいただかないと、勝手に文を読んだことバラしますよ?」
黎深ばりの冷たい微笑みで促すと、今日も黎深は静かに帰っていった。
「全く、黎深の捌き方は見事なものだな」
鳳珠は邪魔されたさっきの続きだと言わんばかりに手を伸ばす。
「御文なら明日渡してくださってもよかったのに。でも百合叔母様にこうやって情報をいただけるのは珍しいことですから、ありがたいですわ。でも…」
春麗は少し躊躇してから、その手は取らずに向かい側に腰掛ける。
鳳珠から戻された文をもう一度開き、最後の方をもう一度読むと、少し胸の奥がチリっとした。
”結婚おめでとう。鳳珠さんにとても大切にされてると聞いたよ。よかったね、春麗。今度帰った時は会おうね”
たったそれだけのこと、百合はきっと素直に喜んで書いてくれただけなのに、鳳珠の過去に百合が絡んでいることを思い出して、少し苦しくなった。
今までそんなこと感じたことなかったのに…と心の中で自己嫌悪に陥る。
「そろそろお湯が沸いたと思うのですが、鳳珠様、湯浴みは?」
「春麗が先に行くといい。私は少し仕事を片付ける」
「わかりましたわ。では、お先に…」
室を出てから小さくため息をついて、湯浴みに向かった。
急に態度の変わった春麗に戸惑いつつ、残された鳳珠が百合の文を再度見て、ため息をついたことは知らずに。