紅梅は緑風に乗って香る−3
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「失礼いたします。戸部の紅春麗です」
「おや、久しぶりじゃね」
仙洞令尹の羽羽が出迎えてくれた。
「急な訪問で申し訳ございません。少し教えていただきたいことがございまして…あ、こちらをどうぞ」
持ってきた菓子ー麻花兒を渡す。
「今度から気を遣ってもらわなくても構わないですぞ。今日はいただいておきますが」
羽羽はにこにこ笑って
「そうじゃ、春麗殿に紹介したい人がいるのじゃ」
と言い、少年を呼び寄せた。
「・・・!」
春麗は息を呑んだ。
初対面の少年だが、なぜか会ってはいけないような気がしたのだ。
少年も春麗の纏う雰囲気が変わったことを察し、息をつめる。
羽羽はふと気がついて
「春麗殿はもう心配しなくても大丈夫じゃ。彼はリオウ殿。まだ内密だが、仙洞令君として呼び寄せたのじゃ」
「おい」
「大丈夫じゃよ。こちらは紅春麗殿。戸部尚書補佐、吏部尚書補佐、そして礼部侍郎じゃ」
「そうか…よろしく」
「紅…春麗です。よろしくお願いいたしますわ、リオウ殿」
「茶を…淹れてくる」
「わたくしがやりますよ?」
「いや、構わない。座っておけ」
羽羽を見ると頷いたので、そのまま腰掛ける。
「ご結婚されて落ち着かれたようですな、おめでとう」
「ありがとうございます。父に…文を書いていただいて、こんなに早くこうなるとは思っていませんでしたけど…」
「それで、今日来られた理由は?」
春麗は少し迷う。
どう説明したらいいのか…、一介の戸部官吏が口を挟めるものでもない、とはわかっていたが、聞くならうー様以外いない、と直感で思ってしまったのだ。
「あの…少し、政事に関することなのですが、気になっていることがありまして」
「ほぅ」
リオウが出してくれたお茶を飲みながら、羽羽は相槌を打つ。
横に座ったリオウが口を開いた
「それをなぜここへ聞きに来た?」
「それは、わしから答えようかの?言わずもがな他言無用だが、春麗殿は先を見る力があるのじゃ。だから、わしのところへ来たのじゃよ」
「…」
「お前、あの女ー紅秀麗と血縁じゃないのか?あいつはそんな力ないぞ」
「秀麗をご存知で?そうですね、双子なんですけれど、わたくしだけ、なんです」
春麗は多くは語らなかった。
秀麗が茶州にいた時に見えた小さい子供がリオウだったかもしれない、と気がついたからだ。
「あんたさっき、政事に関すること、と言ったな。それであれば、さまざまな岐れ道に来ている、金と人事に注意しろ」
「やっぱり…」
春麗は少し青ざめてため息をつく
「心当たりがあったのじゃな?それで、どうするのじゃ?」
「わたくしが選択することはあくまで私事でしょう…それも、主上と高官の選択によるものによって左右されるとは思いますが」
悠舜を真ん中にして、黎深と鳳珠の顔が浮かんだ。
答えはもう、あの宴の夜に…いや、その前から決めてある。
それ以外の選択肢は春麗の中にない。
ただ、自分自身の選択についてはやはりあくまでも私事だ。
迷うことはないが、そこに至らないようにできないか…できないと分かっていながら、大きな傷を負わないようになんとかならないかと思ってしまうのは、ほんの少しでも傷ついて欲しくない人がいるから、という傲慢な想いからなのかもしれない。
そんな自分にひっそりとため息をつく。
「同じことを、王に読んでやった。”見えている”というならお前の方がこの言葉の意味はもう少しはっきりとわかるだろうか?」
リオウがじっとこちらを見ながら伺うように聞く。
「そう、です、かね…?」
「まぁ、今の時点ではリオウ殿の言う通りじゃよ。だが未来を決めるのは星ではなくて人じゃ。選択は、自分で決めないと意味がない」
「はい」
「迷われたり、決められたものの中でどうしてくかは…まぁお身内が近すぎると言うならまぁわしでも構わんが、政治的なことなら櫂瑜殿にでも聞いてはどうかな?春麗殿が訪ねてこられたことを櫂瑜に文で伝えたら、自分の方が先に会っていて文のやりとりもする仲だと自慢されたわい」
「まぁ。お二人は仲良しなのですね?」
春麗はクスクスと笑った。
「あんた、あの女とだいぶ違うが、笑っている方がいいな」
突然のリオウの発言に、二人は目を丸くして、それから微笑みあった。