はじまりの風−3
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夜になり、ただウロウロ見回り、というわけにもいかず、琵琶を持ってウロウロして軽く音を出しながら秀麗の室を見守ってから戻る、ということを続けていた。
主上の指示は夜通し、ということではなかったし、夜通ししたら翌日が使い物にならなくなる。
ただし、確実に睡眠時間は削られていた。
ある日、秀麗の室からは離れているが、よく見える格好の場所で軽く音を出していたら、前から静蘭が歩いてきた。
(ここにきてから、一度も話していなかったかしら…)
正直、静蘭にも隠し事が多い今、あまり会いたくない相手ではある。
あの静かな瞳で見つめられると、全て見透かされているようで、幼い頃から春麗はそれが少し苦手だったし、秀麗第一主義だ。
もともと毎日邸を出たり入ったりしていた自分とは重ねた時間も違うので仕方がないのだが。
「春麗お嬢様…お久しぶりですね」
手は止めずに答える。
「静蘭…言い方に棘があるわね」
「えぇ、後宮に来てから、いらっしゃるはずなのに、日中は”全く”その薄紅の衣のお姿をお見かけしませんでしたから。どこで何をしていらっしゃったのですか?」
(ほぅら、来た…)
「静蘭は…昔からわたくしには厳しいわね。仕事の内容については、依頼の時に霄太師が”別の仕事”とおっしゃっていたでしょう?それをやっているのよ。何かは言えないわ」
身体の向きを変え、琵琶を弾きながら答える。
これ以上、会話をするつもりがないという意思表示のつもりだ。
「春麗お嬢様、お教えいただけないなら、何をなさっているかこれ以上は問いません。ただ…お嬢様は誰にも話さず、お一人動かれますから、くれぐれも無理はなさらないようにお願いします」
それだけ言って、静蘭は去っていった。
今からでも宋太傅を引っ張り出してひと暴れしたい気分になってしまった。