紅梅は緑風に乗って香る−2
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明日は公休日という日の夜更け。戸部は調べ物をしている尚書、侍郎、尚書補佐の三人が居残りで煌々と灯がついてた。
そこへ、なぜか琵琶を2つもった黎深が現れた。
「春麗、新しい琵琶が紅州から届いた。鳳珠の邸に持っていっていないだろう?一つやる」
「あ、ありがとうございます…でも、どうして、今、ここで?」
きょとんとした春麗の問いには答えず、黎深はお茶を要求して、勝手に窓を開けた。
「もうこんな遅い時間なのだから貴様はさっさと帰れ」
と鳳珠に言い捨てられたが、春麗は黙って用意を始めた。
「二胡の音、ですかね…?」
柚梨が気がついて、鳳珠が黙る。
かすかに聞こえてくるのは蘇芳…
「これ、秀麗じゃないかしら?…叔父様、それで琵琶を?」
「ふんっ」
お茶を配って、しばらく外から聞こえる二胡の音に耳を傾ける。
程なくして、曲が終わった。
「上手なものですね」
「母様が二胡が得意で、随分習いましたから」
「お前は弾かないのか?」
「二胡は秀麗のもの、というのがうちの中であって…わたくしも習いましたけれど、弾かないことにしているんです。代わりに、叔父様に習って琵琶を。賃仕事でもやっていたから、そこそこには弾けると思っていますけれど…」
「何が、そこそこ、だ。私が教えたんだからそこそこなわけがない」
黎深が怒りを含んで睨む。
「賃仕事って・・・春麗ちゃん、そんなことやっていたんですか?」
「うちは貧乏なので、色々。そのうちの一つが、姮娥楼で琵琶を弾くことだったんです。秀麗は昼間の帳簿付けをやっていたんですけれど、私はお給金が良かったので楽器演奏を…姿を見せない、という条件にしてもらって、却って人気が出たとききましたよ」
鳳珠は十年前のことを思い出し、どうも紅家と姮娥楼には縁がある…と小さくため息をついた。
(同じことが続かなくてよかった…としか言いようがない)
その時、風に乗って今度は龍笛の音が聞こえてきた。
同じ蘇芳だが、随分と硬質な…氷のように冷ややかな音だ。
「冷たい…けど上手ですね…」
春麗がボソッと呟く。
「葵皇毅、だな」
黎深が忌々しい表情で呟いた後、
「春麗、龍笛が終わったら琵琶で蘇芳を弾け」
その後、黎深は春麗に二、三言耳打ちし、春麗は頷いてから準備を始めた。