紅梅は緑風に乗って香る−1
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鳳珠が迎えに来た軒の中で、春麗は無言で半蔀から外を見ている。
秀麗に挨拶したり結婚の報告を改めてしていた時も、わずかに微笑んだだけで、口を開かなかった妻に何があったのか…わからないが、聞くことは得策ではない気がして、鳳珠も黙って様子を見ている。
少ししたら、春麗がコテン、と鳳珠の肩に頭を乗せてきた。
「…どうした?」
春麗は黙って小さく首を振る。
「そうか…」
鳳珠がそっと髪を撫でてくれるのに任せて、春麗は瞳を閉じた。
「まだ起きていたのか?」
湯浴みも済ませて、そろそろ寝ようかという段階になって、鳳珠が春麗の室に来た。
もっとも、”邸では甘やかしたいから”と、何かと理由をつけて、肌を重ねない日もどちらかの室でーほとんど鳳珠が春麗のところへ行く形で同衾していることが多いので、珍しいことではないのだが。
(さっきの様子も気にはなるが…そもそも春麗と離れ難いと思っているのは私だけかもしれないな)
少し自嘲気味に心の中で苦笑いしながら室に入る。
「そろそろ、休もうかと思っていたところです」
寝台に座っていた春麗は、そのまま顔を上げて伝えた。
鳳珠はしばらくじっと見下ろしていたが、
「少し疲れているようだな、ここが」
と長い指で春麗の胸元を軽く叩く。
「鳳珠様はなんでもお見通しなんですね…」
口に出してみたら、自分で思っていたより弱々しい声が出た。
「ん?そうか?そんなこともないと思うが…妻から私が自分のことがわかっている、と言われるのは嬉しいな」
少し戯けて答えて抱き寄せ、掛布の中に入って横たわる。
甘やかすように髪を撫でていると、ふっと春麗の身体の強ばりが解けた。
鳳珠は口の端を上げて、「どうした?」とまた聞いてくる。
「久しぶりに父様と秀麗と静蘭と過ごしたのですけれど…」
「あぁ」
「もともとそんなに居心地が良かったわけでもないし、居場所がなくて黎深叔父様のところに行ったりしたとはいえ、それでも大切な家族、だと思っていたんですけれど…」
すりっと鳳珠の方に少し近づいて頭を寄せる
「わたくしの今の居場所は鳳珠様のところなんだ、って…」
「あぁ…」
春麗の本音が聞けたことに喜びを感じる。
顎に手をかけて上を向かせて、口付けを落としてから鳳珠は綺麗な顔で満足げに微笑んだ。