紅梅は緑風に乗って香る−1
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「ねぇ父様、春麗が来るのは夜になるのよね?」
少し早めに帰ってきた邵可に、秀麗は尋ねた。
「あぁ。黄尚書には話してあるから、定刻で上がれるようにするとは言ってたよ」
「私が茶州にいる間に、春麗は家を出ていて、結婚までしちゃって、気がついたら官位は侍郎職かぁ…なんだかすごく遠いところに行ってしまった感じ」
ため息をついて秀麗は言う。
「家を出たのは仕事のためだし、結婚は…まぁいつかはこうなるかもしれない、とは思っていたけどね、もともと付き合っていて家を出たわけではないし、黄尚書はきちんとされた方だから、そのあたりは混同しては尚書と春麗に失礼になるよ」
邵可は苦笑いしながら秀麗に言った。
「えぇ、そうね。黄尚書は優しいし、大人の男性の余裕みたいなのあるし、お仕事は素晴らしいし、背は高いし、お金持ちだし、官位は高いし…結婚するのにこんな高条件の方はいないと思うわ。仮面だけど…」
「黄尚書から申し入れをいただいてからね、二人はしばらくは今のままで、というつもりだったのを、結婚は早めに、とお願いしたのは私なんだよ」
「どうして?」
「事情があってね…秀麗が茶州で大変なときにいいのか、って、春麗は随分気にしていたよ」
それから少し間を置いてから続けた。
「官位は…本人が選べるわけではないからね…一年前を思えば、君は州牧だったし、春麗は尚書補佐という肩書きだったけど、官位は珀明くんの一つ上なだけだっただろう?」
「そうなの?珀明は吏部下官だったわよね」
「兼務が多くてわかりにくくなっていたけど、そうだったよ。その時の春麗から見たら、秀麗は州牧は肩書きも官位も立派だった。何も言ってなかったし、茶州に行くことを気遣っていたけど、どういう風に見えていただろうね?」
「…」
邵可にしては珍しく春麗の肩を持った。
もしかしたらずっと春麗はこんな思いをしていたのかもしれない、とここへきてようやく思い当たったのだ。
(黎深は初めからそれがわかっていたということか…)
話しているうちに春麗が帰ってきて、この話は打ち切りとなった。
食事をしながら、最近の様子を共有する。
「黄尚書の奥様やってるってどんな感じなの?」
「そうねぇ、別に、何も変わらないわ。出仕もあるし、家のことは気にしなくていい、と。黄家の仕事も少しはあるみたいなんだけれど、今の時点では何もしなくていいと言われているから、まだその言葉に甘えているわ。いつかはお手伝いすることになると思うけれどね」
秀麗の茶州料理をつまみながら「あらこれ美味しいわね、後で教えて」などと呑気に言っている。
「そうなのね。礼部はどう?」
「わたくしの任務がある程度はっきりしているし、あまり困ることはないわね。進士時代に色々見聞きしてたし、なんと言っても魯尚書に聞けばなんでもわかるから…仕事のきつさで行ったら、秀麗も知っての通り、戸部の方がきついわよ。黄尚書は相変わらずだし、結局、同時期の戸部配属組はみんな持たなかったからね」
「そうか、今年も少しは入るんだろう?戸部は平均年齢が高いのが課題だねぇ」
邵可が口を挟む
「それが、今年も新人なし。吏部尚書が戸部やっていける人がいないって言ってね、お二人で大喧嘩よ。だから一人倒れたり大きな案件が来たら、尚書と侍郎に皺寄せが全ていってしまうから、必死でついて行っているわ」
「上司と部下、って要素が強いんですね」
「そうなのよ、静蘭。まぁ邸で仕事の話をすることって少ないけれど、立て込むと相変わらず尚書もわたくしも泊まりだし、家に持ち帰って仕事していることもしばしばだしね。だからほとんど生活が変わらない感じがするわ。秀麗は最近は外に出ているんですってね。何か変わったことはあった?」
秀麗の顔色がさっと変わる。
春麗が静蘭をチラリと見ると、視線を逸らされた。
(何かあったけれど言わない、ということね…)
采を一口取って咀嚼しながら、少し考える。
(見てもいいが、言わないということは何か裏がある、ということで…)
後で力を使ってみるか迷っている時に、邵可が一言「春麗」と声をかけた。
今すぐにするつもりもなかったものの、どうやら無意識に発動しようとしていたらしい。
邵可には気配で読み取られるということがわかった春麗は少し目を見張る。
(昔からそうだったかしら…?)
と考えたけれど思い出せない。
念のために静蘭も確認したが、こちらは何も気づいていないようだ。
「父様…」
(なんか、居心地が悪い…)
春麗は少し複雑な表情をして黙ってしまった。