紅梅は緑風に乗って香る−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
瑞蘭から「だいぶ召し上がっているので湯浴みは明日にしてください」と言われ、春麗は化粧を落として身体だけ流し、夜着に着替えてから、さらに晩酌をしているという鳳珠の室に顔を出す。
「まだ召し上がっていらしたのですね」
夜着姿でくつろぎながら盃を傾けている鳳珠の横に座り、酌をする。
「寝酒だ、少し飲むか?」
「いえ、わたくしはもう…皆さん、お泊まりになられるかと思いましたわ。鳳珠様がまだ召し上がられるなら、お引き止めすればよかったかしら?」
「なにも、私たちの邪魔をさせることもないだろう?」
お酒のせいか、鳳珠が甘さを含んだ声で聞いてくる。
普段はテキパキとした話し方で頼もしいのに、急に違う一面を見させられるとドキドキしてしまう。
こういうところが、ずるい…と春麗は思う。
「でも…せっかくの機会ですから、離れにそのままいていただいても良かったのかしらと思って…」
「正直、凜殿が来てくれて助かったな。まぁいなきゃいないで、悠舜は帰ると言っただろうが…主役が不在なら、帰せるからな。残ろうが帰ろうが飛翔は朝まで飲むだろうし、残ったら黎深はお前の室にでも居座っただろう」
実際、黎深は悠舜に説得され、寝ぼけ眼の玉蓮にたしなめられてしぶしぶ帰って行った。
それを思い出して春麗はクスクス笑う
「黎深叔父様、わたくしが言うより、玉蓮姫が言う方が聞いてくださるのですよね…身内の次ぐらいに可愛がっていますし、余程、気に入られたんだと思いますわ」
「あいつは意外と柚梨贔屓だからな」
「あら、そうなんですの?確かに、仲良くしたそうには見えますわね」
実際、最近は戸部に来たときに、時々ちょっかいを出しているのを見かける。
「それにしても…いつか…鳳珠様が話してくださった、悠舜様が戻られた時のお約束…夜でお花の下ではなかったですけれど、叶えられましたね…」
「10年ほど前か…その時にした約束には、春麗は入っていなかったが…」
春麗を抱き寄せて、肩口に顔を埋める
「いま願う姿は、今日のように、その時には必ず私の隣に、春麗がいてくれることだ…」
さっきよりさらに甘い声で耳元で告げられて、腰が砕けそうになる。
(鳳珠様のお顔やお声で倒れてしまう方は、こんな感じなのかしら…身が持たないの、わかるかも…)
ほんの少しだけ心の中で気合を入れてから、そっと鳳珠に抱きつくように肩に手を添えて告げる。
「わたくしは…何があっても鳳珠様のおそばにいますわ、ずっと…」
黎深との先程の会話が少し脳裏を掠めたが、酒のせいかいつもより一段と甘い鳳珠の唇が降ってきた段階で早々に考えることを放棄して、どうやら多少は酔っているらしい、と心の中で言い訳をしてから、その甘さにぐずぐずと溶けることにした。