紅梅は緑風に乗って香る−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
室に入ってきた春麗を見て、全員が息を呑む。
瑞蘭はじめ黄家の侍女たちによって着飾られた姿は、準禁色の黄色の衣に襟の差し色は紅。
下げ髪を軽く編み込んで後頭部で結び、金の玉簾のついた髪留めでとめて、下ろした髪は所々小さな石のついた花の髪留めで挟んで、動くと綺羅綺羅光るようになっている。
化粧は控えめであるが、妖艶さと可愛さが同居している元々の美しさを引き立てて十分であった。
それまでの騒がしさが静かになってしまった室内に少し戸惑って、春麗は首を傾げる。
「これは、また…」
「春麗ちゃん、綺麗ですよ」
初めに反応を示したのは悠舜と柚梨
「宮城で見るのとずいぶん違うな」
「さすが黄尚書のお邸の侍女たちですね、とても趣味がいい」
工部組も驚く
「春麗ちゃん、綺麗〜」
玉蓮の声にふっと微笑んだ姿はとても妖艶で…
「義姉上…?」
黎深が引き攣った顔でぽつりと漏らした。
その様子にふっと目を止めた春麗は黎深の耳元で
「黎深殿、何を怖い顔をしておる?笑顔の時間じゃぞ」
と言って慄く黎深を見て笑い始める
「いやですわ叔父様、母様はもっと美しかったじゃないですか?確かに…少し似ているとは思いましたけど、母様の美しさの足元にも及びませんわ」
と言って、玉蓮と席を変わって「みなさま、お待たせいたしましたわ」と礼をしてから席に着く。
鳳珠は春麗の耳元で「綺麗だ…」と言って、そっと手を取ると「ありがとうございます」と小さい声で答えが返ってきて、満足そうに頷いた。
少しずつもとの賑やかさが戻ってくる。
鳳珠が飽きもせずずっと春麗を見て、髪を触ったり手を握ったり、甘さ全開でいる様子に、ようやく工部組がツッコミを入れる。
「いつ言おうかと思っていたんだが、いつまで二人の世界に入っているんだよ?」
「というより、そういう仲なんですか?」
パチパチと瞬きをする春麗。
鳳珠は「あ…」と声を出した。
「そうですよ、鳳珠。あの手紙!何が、”と、いうことだ”、ですか?春麗姫が書いてくれたからいいようなものの、その頼りの春麗姫の手紙も淡々と報告のみで全然様子が分からなくて、茶州で燕青も影月くんも秀麗殿まで混乱してましたよ?」
「え?鄭尚書令の時もそれだったんですか!?鳳珠、春麗ちゃん、あなたたち何やってるんですか!!」
と柚梨が怒り始めた。
「私の時”も”とは?」
「それが聞いてくださいよ!鳳珠は春麗ちゃんとお付き合いを始めた時も、玉蓮が”ほーじゅさまにとって、春麗ちゃんは特別なんですねぇ”とか言ったのを、”ということだ”、で片付けようとしたんですよ!」
「それはいけませんね、鳳珠。私たちもですが、朝廷で誰があなたを一番心配しているかわかっているでしょう?」
悠舜の冷静な指摘に、鳳珠は小さくなる。
「す、すまない…」
「フン」
悠舜に怒られて、しゅんとした様子で鳳珠が答え、黎深がつまらなさそうに相槌を打つ。
「えっと…?」
「あ、さっき、玉蓮姫が”トクベツ”って言ってたのは、今の話ですか?」
玉が思い付いたように言う。
「鳳珠…あなた、さっさときちんと報告したほうがいいですよ?」
柚梨に水を向けられて、鳳珠は春麗を見た。
コクっと頷いた様子にようやく
「春麗と結婚した」
と一言つげる。
飛翔、玉、悠舜の視線が春麗に集まる。
「…と、いうことですわ」
少し頬を赤らめながら、鳳珠の言葉を借りて答えた春麗に、悠舜が苦笑いした。
「あなたまで真似しなくても…でも、おめでとう、鳳珠、春麗姫。ようやく鳳珠にお嫁さんの来てがあって、本当に安心しましたよ」
「本当だな、この顔になんともないのは貴重だぜ、大事にしろよ」
クスクスと笑って春麗が聞いている。
対照的に、黎深は苦虫を潰した顔をしていた。
それを見て、玉蓮が黎深の横に行って、話しかけて黎深の気を逸らす。
「玉蓮姫はまだ小さいのに色々見えているんですね」
悠舜が感心したように柚梨に言った。
「みょうに聡すぎる反動か、鳳珠たちに対しては話し方がやたら子供っぽいんですけどね」
春麗は瓶子を持って悠舜と柚梨のところへ移動する。
「悠舜様、柚梨様、よろしければ少し」
と酒杯に注ぐ。
「秀麗殿もそうでしたが、春麗姫もすっかり大人の女性になられて、と思っていたら、あっという間にお嫁入りですか」
悠舜が目を細めて微笑む。
「そういえば、この前、子供の頃にお会いしたと言ってましたね?」
「えぇ、秀麗殿は私に懐いてくれたのですが…」
黎深の突き刺すような視線が悠舜に注がれて、悠舜は苦笑いしながら続けた。
「春麗姫には私は泣かれてしまって。で、その春麗姫が泣きついた先が鳳珠だったんです」
「おやまぁ」
柚梨が意味深な顔で鳳珠を見る。
「なんで悠舜と奇人は会ってたんだ?」
飛翔が酒瓶片手に聞いてくる
「あぁ、それは黎深が兄上から”友達を連れてきたら邸に入れてあげる”と言われたらしいですよ。で、そのために木登りまでさせられて、おっこちたんです」
「…」
工部組と柚梨の冷たい視線が黎深に刺さる。
「俺は誘われてないな…」
飛翔が少し寂しそうに言った。
「秀麗殿は覚えていないらしいので、この話は黎深のためにもしないであげてくださいね」
悠舜が軽く釘を刺しておくと、一同は頷いた。
「と言うことは、あなたは覚えていたんですか?」
欧陽侍郎の問いに
「はい、わたくし、結構小さい時の記憶があって…父様より黎深叔父様に懐いていたので」
「えっ?」
「あんた、変わりもんだな、黎深に懐けて、奇人に嫁げる。挙句に俺と率先して飲み比べするんだぜ。あの時は時間がなかったからできなかったが、一度ガチでやりたいものだな」
飛翔はゲラゲラと笑う。
「絶対に、だめだ」
鳳珠と黎深が青筋立てて怒っているのを見て、「まぁまぁ」と春麗が飛翔のところへ移動する。
飛翔用の酒瓶を手に取り
「もう飲み比べは致しませんわ。その代わりに、お酌をさせていただきます。こちらの酒杯じゃ管尚書と欧陽侍郎には小さいでしょうから、これを使ってください」
と玻璃の大きな酒杯を渡す。
「私が飲めるとどうしてわかったんですか?」
「だって、管尚書の副官をずっと勤められるぐらいでしょう?お仕事だけでなくお酒も基準の管尚書が認められた、ということは、尚書と同じかそれよりお強いのではと思いまして。今度、工部のお仕事で伺った時はお手柔らかにお願いいたしますね」
注ぎながらさらりと伝えておく。
「おぅ、奇人の嫁なんだから、俺のことは飛翔でいいぜ」
「私も玉で構いませんよ」
「ありがとうございます、飛翔様、玉様」
昔話をしながらツッコミを入れる宴はそれなりに楽しく続く。