紅梅は緑風に乗って香る−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「第一に、民を治めるにあたり仁義を重視すること、第二に、むやみな戦を慎むこと、第三に単に大貴族だからと権限ある地位につけないこと、第四に法にない官位を勝手に増やさないこと、第五に陛下のご威光を笠に着る者の不法を厳しく取り締まること…」
「第六に、賄賂の途を塞ぐこと、第七に税金による道寺や離宮など無駄な造営をしないこと、第八に君臣の礼を明らかにするとともに、臣下に対しても礼を持って遇すること、第九に諫言の途を広くひらくこと、第十にこの先、陛下のご婚姻に際してできるであろう外戚の政事介入を決して許さないこと…」
悠舜の十の指が全て折られた。
「ー以上十箇条、お約束いただけますなら、尚書令の位、伏して拝し奉りましょう」
黎深は扇をひらき、鳳珠が仮面の裏で呆れたように嘆息した
「…悠舜め、やったな…」
「ちっ、甘やかして。あんなはなたれ小僧、悠舜がかばう必要などないんだ」
「誰もやらないから悠舜がやったんだろう。今の李絳攸や藍楸瑛にはできない芸当だ」
悠舜が羽扇を取り上げて承諾する様を、黎深は苦々しげに、鳳珠は仮面の下で複雑な表情で見守っていた。
「それで、黎深叔父様は面白くないのですね」
春麗は吏部尚書補佐の日ーいつものように尚書室でお茶をしていた。
「悠舜様は…叔父様が言ったところで聞いてくださる方ではありませんからね…」
「そう、はっきり言うな」
黎深が面白くなさそうに答えて、春麗はクスッと笑ってから、少し遠くを見てため息をついた。
「春麗、これははっきり言え。この先、悠舜はどうだ?」
春麗は黙って首を振る。
「叔父様や、鳳珠様に関わる方のことは見ないことにしたんです」
それは裏返せば、幼い時に何気なく見てしまった悠舜の先が…年齢とともに近づいてきていることを察しているためでもあった。
この答えで、天つ才の黎深には言わずともわかると春麗は知っていた。
黎深は黙ってパチンパチンと扇を鳴らしている。
春麗は、答えの代わりに続けた。
「黎深叔父様、鳳珠様から聞いたのですけれど、昔…悠舜様が茶州に行かれるときに、”いつの日かまた、花の下で、誰一人かけることなく、碁を打ち、盃を交わそう”って約束した、って…」
パチン、と黎深の扇の音が止まった。
しばらくして、徐に立ち上がり、
「春麗、いくぞ」
と手を取って尚書室を出る。
向かった先は、戸部だった。