はじまりの風−1
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数日、吏部宛の書簡がなくて(そろそろ行かないとまずいかな)と春麗が思いながらお茶とお菓子を出していたところ
「黄尚書は何を呑気に茶なんぞ飲んでいるのだ」
と黎深が現れた。
(もっと早く来るかと思ったのに、意外と様子見してたのかしら?それとも、秀麗の覗き見が忙しかったのかしら?)などと思っていたら、勝手に尚書の前に椅子を持ってきて、どかっと座り、黙ってこちらを向く。
「・・・」
真っ赤な尚書と侍童が見つめ合うこと5秒
「紅尚書、どうぞ」と天寿は自分用のお茶とお菓子を出した。
お茶は淹れればいいが、お菓子は最後だったのに…と思って少し膨れていたら
「天寿、こんなやつに茶も菓子もくれてやる必要はない」
と黄尚書に言われた。
「天寿は、私に!、くれたんだ!君にとやかく言われる筋合いはない!」
「貴様はこんなところをほっつき歩いていないでさっさと仕事しろ!」
「君が仕事ばかりしているから、休憩のために私はきてやったんだ、ありがたく思え」
「そもそも、呼んでないし、休憩もしている。休憩しに来るなら菓子折りの一つぐらいもってこい」
(えっと、なんか…この二人、仲悪い???)
黎深叔父様はともかく、黄尚書は普段と全然違う。
子供の頃に見た時は、こんな感じではなかったような気がするのに、と手を止めて呆然と見つていたら、景侍郎にポンと肩を叩かれ
「お二人はいつもこんな調子なので、気にしないでくださいね」
と優しく教えられた。
天寿の肩に置かれた手を見た黎深が殺気を立てて景侍郎を見たのか、ひっと小さな声をあげて肩から手を離し、そそくさと席に戻っていく。
黎深は当てつけかのようにお茶もお菓子もすごい勢いで口に入れ、満足気に「お代わり」と茶杯を出した。
軽くため息をついて、黙ってお茶を足して渡す。
それを見ていた黄尚書が小皿を差し出し、
「天寿、私は菓子はいいから食べなさい」
と言ってくれた。
「でも…」
「私がいい、と言っているのだから、構わない。甘いものは好きだろう?」
「ありがとう、ございます…」
にっこり笑ってお礼を伝えて受け取る。
幸せそうな顔をして食べる天寿を見た黄尚書は満足気に頷き、横では面白くなさそうな顔をした黎深がいた。
それから、お茶休憩を狙ってくる紅尚書と追い返そうとする黄尚書のバトルは午後の戸部名物となった。
たまに「天寿に」と言って黎深が食べきれないぐらい大量のお菓子を置いて帰るので、それは戸部官吏たちの家へのお土産となっていて、黎深の思惑と外れ、密かに喜ばれていた。