藍より深い碧の大地−2
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「父様、お茶は私が淹れるわ」
黎深と話した後、春麗は府庫に寄って邵可と話す
父茶を阻止するように手早く用意をし、机の上の山盛りの紅州蜜柑も剥いて渡す。
「黎深から日取りのことを聞いたね?鳳珠殿から、春麗を妻として迎え入れる準備ができた、と話があったのだが」
「日にちは聞いていません。父様から聞くように、と。ねぇ父様、秀麗が命を賭けているときに、わたくしが婚姻の話を進めていていいのかしら?」
先ほど、黎深が答えてくれなかった問いを向けてみる。
秀麗第一の父としては面白くないと思っているかもしれない、と不安にもなる。
(自分の人生を、と言われているけれど、思いを貫くことはいけないことなのかしら…?)
「確かに、今の秀麗の状況を考えると、春麗が気にするのはわかるよ。でも、春麗のことは私事で、秀麗に起こっていることは公のことだ。自分自身に起こっていることならともかく、仕事を犠牲にして人生を決めるものでもない。想いが変わらないなら、貫き通すべきだよ」
「…」
「一つ昔話をしようか…私がこの話をしたのは黎深だけだからね、私と黎深以外は知らない話だ」
邵可はお茶を飲んで思い出すような表情になる。
「私はね、妻と出会った時、私の仕事にとっては敵のような相手だったんだ。でも一目で好きになって、お願いしてお願いして、全くその気がなかった彼女が承諾してくれるまで、情けなぐらい本当に何度もお願いして、それでもいい返事はもらえなくて、”妾がいつかそなたを「我が背の君」などと呼ぶとでも思っているのか?おめでたいぞ”とまで言われてね…」
その時の声が聞こえたのか、少し困った顔をしてから、続けた。
「本当に口説き落とすのにどれほどかかっただろう…ようやく承諾してもらったんだ。どんな人でも人生に一つや二つ‥自分の想いを貫くものがあってこそ、自分の人生だと私は思うよ。私は、私の人生において、彼女を手に入れることだけは、誰にも譲れなかったんだ。君は鳳珠殿を想っているのだし、彼の想いを受け取ったのだろう?いろんな事情があって時期が早まった、そこに秀麗の件が重なってしまっただけだ。簡単に覆せるほど…君の鳳珠殿への想いは軽いものだったのかい?」
「…」
ふるふると春麗は首を振った
いつから、とか、どこから、なんてわからないけれど、今となっては鳳珠以外の男性と一緒にいることも、婚姻も考えられない。
過去に”政略結婚なら致し方ない”なんて考えたこともあった自分は、想いを自覚してからどこにもいない
「分かりました、父様。決めていただいた日に、鳳珠様の元に嫁ぎます」
それでいい、と言うように、邵可は頷いて見せた
「日どりは、あちらでいろいろ見ていただいた結果、一番良い日で決めてくださったとのことだよ。おそらく、秀麗の処遇と春麗の配属変更が朝議で話題になる日に重なると思う。手続きはあちらでしてくださることになっているから、何もしなくていいらしい。本当ならうちから送り出すのだろうけれど…まぁ出仕もあるし、普段通りでと私の方から話してしまったが、それでよかったかい?」
情報量が多い邵可の言葉をすこし頭の中で整理する。
仕事のことは後で鳳珠か黎深に聞くとして、まずは自分のことだ。
「はい、構いません…でも、父様への挨拶はいつしたらいいかしら?」
「挨拶?花嫁の父、ってやつだね…なんか二人だけだとしんみりしてしまいそうだし、黎深入れるとお嫁に出してもらえなさそうだしね…式はまたそのうち、ということにしてあるから、その時にしようか?」
二人で黎深の姿を想像してふふっと笑う
「ありがとう父様、そろそろ戻るわね」
幾分すっきりした表情の春麗を見て、邵可はもう一度微笑んだ