はじまりの風−1
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(それにしても、休みも取らずによく働く…吏部と変わらないわね。さすが、”魔の戸部”)
これでは忙しすぎて倒れてしまうのも目に見えているが、なんとか気合いで乗り切っているようにも見える。
書簡運びもなく、午後も少し立って疲れが出始める時間帯を見計らって、戸部官吏全員にお茶をいれて配った。
「はいどうぞ、黄尚書」
中央の大机案にいた尚書近くの邪魔にならなさそうな場所を選び、カタン、とお茶をおく。
「なんだ。これは?」
「一日中働き詰めでは疲れがたまるばかりで結果的に能率が下がる気がします。せめて一日に四半時でも休憩をとってはいかがでしょう?」
仮面姿で表情が読めない。
しばらく沈黙が続いた。
「・・・一日一回だ」
「はい!では、こちらもどうぞ」
小さな焼き菓子も添える。
背中に視線を感じて振り返ると口をあんぐり開けてみている景侍郎と戸部官たちがいて、そんなに驚くことかしら?と首を傾げた後、菓子を渡し、他の官吏にも配って歩いて、角の机でゆっくりお茶を飲んだ。
ふと尚書に目を向けると、こちらを見ていた。
「?」と首を傾げているとお茶にゆっくり手を伸ばす。
(あ、仮面!)
と思ったら、顎に手を当てて、カコン、と音がしたと思ったら仮面の口が開いた。
「!!!!!」
何やら、すごくエグいものをみた気がする…
居た堪れなくなって視線をキョロキョロ泳がしてみなかったことにしておこう、と誤魔化す。
ちらっと尚書を見たら、肩を揺らして笑っているように見えた。
仕事を再開した頃、景侍郎がコソコソと寄ってきて話しかけてきた。
「天寿くん、いったいどんな仙術を使ったんですか?あの人が一日一回お茶をするようになるなんて…青天の霹靂です!」
「特に、何も…ただ、休憩しないと能率が下がると思ったので、勝手にお茶を出しただけですよ?」
「・・・そうですか、でも、この頃あの人の機嫌がいいわけがわかりましたよ。あなたを本当に気に入ったんですね」
「気に入った?黄尚書が私をですか?」
かなりびっくりだ。
「ええ、口には出しませんが、黄尚書は内心とっても感心しているはずですよ。もちろん私もです。今ではあの人が怒ることもすっかりなくなって。ずっといてもらえるといいのですが」
「ありがとうございます!…でもすみません、まだ時期はわからないのですが、臨時になると思います」
(臨時…)自分で言った言葉に、ちりっと胸が痛む。
きっと、ここにいるのが楽しくなってきているのだろう。
(いつまでいられるかしら?)
突っ込まれる前に話題を切り替える。
「でも、仮面を被っているのに、よく機嫌の良し悪しがわかりますね?」
「おや、わかりませんか?」
ニコニコと景侍郎は笑う。
うーん、まだ私にはそこまで見ることができないのかもしれない。
長く一緒にいたらわかるのかな?と思っているうちに、話は終わった。