白銀の砂時計−2
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その日の夜、春麗は鳳珠を待って一緒に帰った。
櫂州牧と会ってきてからとにかく鳳珠の機嫌がわるかったためだ。
(今度から、先にお話ししておかないとダメね…)
立場を置き換えてみて、”お付き合い”なるものを始めたばかりの時に同じことをされたら確かに気分の良いものではない、ということに気がついて、春麗なりに反省したのだ。
鳳珠の着替えを手伝いながら
「あの…今日はごめんなさい」
と言ってみた
「…何がだ?」
「櫂州牧とお会いすること、先に鳳珠様にお話しておくべきだったと…ごめんなさい」
「…私ではダメだったのか?頼りないか?」
先程までのくぐもった声と異なり、力のない声が聞こえた
「え?」
春麗が顔を上げると、ひどく傷ついた顔をした鳳珠の顔があった。
(そういえば、今まで仮面してたから鳳珠様の表情がみられてなかった…こんなに傷ついていらしたなんて)
「いえ…そうではありません。わたくしが誰より頼りにしているのは、今もこれからも鳳珠様ですわ…ただ…その、先ほども申し上げた通り、鳳珠様だと近すぎて…その…」
口にしようとすると恥ずかしさが立って、赤くなってモジモジとしてしまう。
鳳珠は少し不思議そうな顔をして
「急に赤くなってどうした?」
と顔を近づけてくる
「そ、その、あの…今日、父様や黎深叔父様に申し入れしてくださったでしょう…?ですから…将来、鳳珠様と結婚したり、子供が生まれたりしたら、女人官吏としては、鳳珠様だと近すぎるんです!」
ぱっと顔を背けて手で覆う。
なんだか先走っているようで恥ずかしくなって、しゃがみ込んだ
「・・・」
(よくわからないが、春麗なりに真剣に将来のことを考えた、ということ、か?)
「春麗」
しゃがんでいるのを立たせて、安心させるようにそっと腕の中に閉じ込めて髪を撫でる
「確かに、”夫”では近すぎて、冷静な判断ができない時もあるかもしれないな。第三者の意見を聞きたい、というところまではわかったが、なぜ櫂州牧だったんだ?」
「・・・だって、正一品の二人は関わるとろくなことないし、その下は櫂瑜様とうー様以外は貴族派が中心、その次はもう鳳珠様や叔父様ですもの、頼れるところは櫂瑜様とうー様しかいません」
「うー様?」
「羽羽仙洞令尹ですわ。後宮で”うー様”って呼ばれているんです。あの可愛らしいモコモコ具合もあって、大人気ですわ」
「…な、るほど、な」
(まぁ、櫂瑜殿と羽羽殿、というその選択は無難だろう。どちらもやたら大物ではあるが。それにしても、うー様、か)
鳳珠は”うー様”の人気を想像してクスリと笑う
「うー様にはわたくしの個人的なことをお伺いしたくて、お文を出しています。こちらは、うー様以外の方には聞けませんわ」
「個人的なこと?」
「えぇ…聞くのは怖いですけれど…この先のことを考えると、避けては通れないので…不安に思う要素ははっきりさせておきたいですし、場合によっては…」
春麗の表情に影が差し、鳳珠は不安になり抱きしめた腕に力を込めた。
「うー様には、私の力のことと、前に話したその…子のことを…」
「力のことはともかく、子のことは前にも言ったが気にせずとも構わない」
「でも、知っておきたいんです。母様が子は宿せないはすだったのに、わたくしと秀麗を授かったので、わたくしもその血を引いているから…しばらくは鳳珠様と二人きりで過ごしたいですけれど、いつかは…とも思うので…」
鳳珠はふぅ、とため息をついた
「知ってしまってお前が傷つくのを見たくはないが、知らずにもやもやと過ごすのであれば、聞くのを止められないのかもしれないな…」
頭を撫でて続ける
「くどいようだが、私はどちらでも構わない。春麗がいてくれればそれでいい。そこはわかってくれるか?」
「鳳珠様…」
向けてくれる愛情に瞳が潤む
「私が望むのは一つだけだ。隣にいてくれればそれでいい…私の望みを叶えてくれるか?」
「はい…わたくしも、鳳珠様がわたくしの隣にいてくだされば…」
「櫂瑜殿や羽羽殿に相談するのは構わないが…」
少ししてから鳳珠が口を開く
「私にも話してほしい。春麗の考えていることは知りたい、全部。前に言っただろう、抱えきれない想いがあるなら私が一緒に持とう、と…」
「鳳珠様…」
「上司としても、恋人としても、将来の夫としても…春麗の全ては私が守る…」
鳳珠は一度春麗に口付けてから続けた
「それに私はどうやら独占欲が強いらしい。八十を過ぎられた櫂瑜殿とはいえ、伝説の官吏で伝説の色男だ。私の春麗が私の知らないところで他の男と二人きりで会っているというのは…許せん。羽羽殿も同じだ」
急に子供っぽい物言いをした鳳珠に、春麗が驚く
「まぁ」
「明日は公休日だ。私に…春麗を独占させてくれるか?」
「フフフ…もちろんですわ、鳳珠様。わたくしも…鳳珠様と二人きりで過ごしたいです」
「では、明日はどこか出かけるとしよう」