白銀の砂時計−2
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「だめだ」
兄上から珍しく府庫でお茶をしようと誘われて行ったら春麗がいた。
そこまでは良かったのだが、次に聞かされた言葉で不幸のどん底に落ちる。
いや、いつかこの日が来るかもしれないことは知っていた…
「鳳珠なぞ、認めん。たとえ兄上が認めたとしても、私は許さん」
当然、黎深は問答無用で答える。
(やっぱり・・・)
邵可と春麗は同じ表情で顔を見合わせる
春麗は邵可に向かって小さく頷いてから口を開いた。
「黎深叔父様が、父様以上にわたくしを愛してくださっているのはよくわかっています。だからこそ、もし、もしも、わたくしの幸せを少しでも願ってくださるなら、黎深叔父様にご理解いただきたいのです。父様へは鳳珠様からお話ししてお許しいただきましたわ。わたくしから直接お話しするのは黎深叔父様だけです」
ところどころに黎深の心をくすぐる言葉が散りばめられていたり、やたらと黎深叔父様、と強調するあたりに、聞いている邵可は感心する。
「鳳珠様とお付き合いしても、黎深叔父様を大切に想う気持ちも、わたくしと黎深叔父様の関係性も変わりませんわ」
”大切に思う”と言われて黎深の顔がデレっと笑み崩れる
「黎深…春麗の父親は私だよ?私は、鳳珠殿なら春麗にとって一番いい相手だと思うし、春麗も鳳珠殿を慕っているんだ。それに、鳳珠殿であれば、君と春麗の関係もよくわかっている。君にとっても一番いいと思うけれどね?」
邵可も少しだけだが春麗に助け舟を出す。
春麗は邵可を見て、少し微笑んだ。
しばらく、扇をパチパチ開いたり閉じたりしながら、黎深はぶつぶつと独り言を言っていたが、徐に春麗に向かって話しかけた。
「官吏はどうするのだ?」
「続けます。いつでも外朝でお会いできますわ」
「…呼べば来るか?」
「なるべく」
「必ず来い。いや、呼ばなくても毎日来い」
それには答えず、曖昧に微笑む春麗。
黎深はパチンと扇を鳴らした。
「本音は私の手元に置いておきたいが…なんなら私と結婚させたいぐらい可愛いが…」
黎深の爆弾発言に邵可と春麗は真っ青になって慄く
(いや、いつか言うかと思っていたけれど、黎深、君ね…)
邵可は口から出そうになったため息を、盛大に心の中でついた
「春麗には春麗の人生を歩んで欲しいと昔から言っていたことを覆すこともできん。鳳珠というのが気に入らんが…」
「黎深」
邵可が何かいいたそうに口を挟むが、春麗が腕を取ってふるふると首を振り止めた。
「好きにしろ」
黎深の”好きにしろ”は肯定の証。
「ありがとうございます。黎深叔父様、大好きです」
抱きついてきた春麗に驚いたものの、次の瞬間、目を細めてぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「黎深、春麗が窒息しちゃうよ…」
少し困り顔で邵可がつぶやいた
約束の時刻になり、鳳珠が”迎えに”きた。
「何をしにきたのかは知らんが、貴様なんぞに大事の春麗はやらん」
まだぎゅうぎゅうと春麗を抱きしめたまま、黎深は言い放った
「黎深、いい加減にしないと春麗が窒息死してしまう、離しなさい」
邵可が嗜めるとぱっと腕を離した黎深だが、酸素が足りてなかった春麗は真っ赤な顔をして「ほう…じゅ、様…」と崩れ落ちた
「馬鹿か貴様は!圧殺してどうする!」
春麗を抱えて青筋を立てて怒鳴りつける鳳珠に「だ、大丈夫です…息、してます…」と必死に息を吸いながら答える
「黎深、いくらなんでも今のはやりすぎだよ。春麗に何かあったら、私は君でもただではおかないよ」
黒狼の表情で普段の温和な顔を消した邵可に、黎深は慄き、鳳珠は驚きで固まった
「す、すみません兄上…春麗、大丈夫かい?」
隙あらば春麗を奪い返そうと手を伸ばした黎深に鳳珠が気づき、さっと避けてしっかり抱きかかえなおした。
「そうだ、春麗、黎深。その話で玖琅が動いているけれど…」
春麗は鳳珠の腕の中でヒュッと息を呑んで固まる
「春麗については私がしっかり話しておくからね。黎深の方は自分でなんとかしなさい」
チッと舌打ちした黎深と、ふぅ〜と吐き出して
「くれぐれもお願いしますね、父様」
と答えた春麗だった