茶都・月の宴−2
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采が大方出来上がった頃、「ごめんください」と声がかかる。
出てみれば、黄家の家人だった
「どうなさったんですか?」
「お館様からよりの御文です。こちらにお届けするのは久しぶりですね」
どうやら、かつてはよく遣いに出てくれていた家人らしい。
(それで中まで入ってこられたのね)
門番や家人のいない邵可邸、中まで入ってくるのはそれを理解している人のみだ。
「ありがとうございます」
「お返事は不要と伺っておりますので、これで失礼いたします」
渡すだけ渡して、家人はさっさと帰っていった。
(黄色い水仙…)
文に添えているので一輪だけ。
お見舞いでもないのにお花をいただくのは初めてで、ちょっとくすぐったくなる。
裏を返してみると、昔のように、署名のない手紙。
少し懐かしさを感じ、フフフと微笑んでから開く。
案の定、早めに迎えに行く、という内容だった。
中の署名も、昔と同じ。
”私の元へ帰って”かしらね…
(帰るまでは包厨にいるから、飾っておきましょう)
と、作業をする邪魔にならないところに活けて、ニコニコと眺めながら調理の続きをした。
程なくして黎深がやってきた。
「春麗〜〜!!」
いつものようにガバッと抱きしめられる。
「黎深、春麗が苦しがっているから離しなさい」
邵可がそれとなく嗜めて解放してくれる
「黎深叔父様、お片付けの手配をありがとうございました。おかげさまでわたくしが来た時にはすっかり綺麗になっておりましたわ」
「一人でこの邸を片付けるのは大変だろうと思ってね」
黎深は得意げに頷く。
自分がやったわけではないのだが。
「お礼に、お午を作りましたの、父様と三人でいただきましょう」
あらかじめ予定されていたことだが大袈裟に喜んだ黎深を見て、邵可と春麗は笑った。
「春麗、見慣れない采があるね」
邵可が箸を伸ばしながら聞く。
「あ、それは…せっかく黄尚書のお邸にお世話になっているので、庖厨所で黄州の采を教えていただいているんです。行ったこともないですし、いただく機会もないのでいい采の勉強になっていますわ。せっかくなので二皿作ってみたの」
「春麗はうちに来ていた時にも采を習っていたし、熱心だね」
黎深が思い出してデレデレとしていた。
「父様、叔父様、どう?お口にあうかしら?」
「美味しいよ、春麗」
「よかったわ。秀麗が帰ってきたらまた作りに戻るわね」
「今日はこっちに泊まらないのかい?」
邵可がすこし寂しそうに聞く
「えぇ、明日も出仕ですし、仕事の荷物も官服も持ってきていませんから帰りますわ。鳳珠様が街にでる御用があるみたいで、ついでにお迎えに来てくださるそうです」
「あいつが街に用があるわけ無かろう。私が送る」
黎深が憎々しげに言う
「ご用があるのは本当のようですよ。毎年の新年の準備で、戸部でのお配り物を選びに行かれているそうです。これだけは、呼ばないでその時に一番いい物ををご自身で選ばれるのですって」
文に書いてあったことを受け売りで話す。
「絶対阻止してやる」と言う黎深を見て
「父様、その時はお願いね」
と小声で頼んでおいた。