茶都・月の宴−2
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約束の公休日
春麗は前日に途中まで作っておいたものを、朝早くに起きて折詰に詰める。
ついてくる家人たちの分とふたつ作り、お茶の用意もちゃんとして俥に乗った。
俥はカタカタと音を立てて進んでいく。
半蔀からの景色を春麗は楽しんでいた。
一刻近くたっただろうか、俥は速度を落として止まった。
鳳珠が手を取り降りる。
「少しだけ歩くから荷物は私が持とう」
「ちょっと待ってください」
風呂敷を開け、下の折詰と水筒を一つ、家人たちに渡す。
「お待ちいただく間に召し上がってくださいな」
家人も鳳珠も目を丸くする。
「いえっ、それは姫様が!」
家人は慌てて遠慮するが、
「ちゃんとわたくしたちの分はありますから、どうぞ」
と押しつけて、鳳珠へ折詰を渡して、お茶を持つ。
「家人たちの分も用意してくれたのか…すまなかったな」
「いえ、張り切ってたくさん作りすぎてしまっただけですわ」
ニコリと笑って、鳳珠のあとをついて歩いた。
少し行くと視界が開けて、綺麗な湖が見えた。
「こんな素敵なところが貴陽から一刻ほどのところにあったのですね」
目を輝かせて春麗は湖を見つめる
「こちらに」
手を引かれて、木陰に移動する。
「ここに座って見る景色が一番気に入りだ」
敷き布を広げてその上に腰を下ろした。
視線と同じ高さに、キラキラ輝く湖面と、その先に対岸の山が見える。
「本当に美しいですね…わたくし、湖は初めてです…」
うっとりと光る湖面を見つめている春麗の前髪に手を伸ばしそっと耳にかけて鳳珠が微笑む。
しばらく緩やかで穏やかな時間を過ごした。
「朝を抜いたから少し早いが弁当をいただくか」
「まぁ。お口に合うといいのですけど」
折詰を開くと、おにぎりは大きめのと小さめのもの、いろどり豊かなおかずが出てきた。
「中身は何か?」
おにぎりの具は鳳珠が好きだというものを包厨人にこっそり教えてもらって作ったものだ。
「いくつかありますよ。どうぞ」
とお茶を入れて渡す。
口にした鳳珠は少し驚いていたが、おかずも嬉しそうに口に運んでいる。
「とても美味しい。春麗は采が上手いな」
「ありがとうございます」
黄邸に居候して二ヶ月、なんとなく鳳珠の好みもわかってきているきがする…
小さめのおにぎりを手に取り、口に運んだ
食後の散歩をしてから、木の下に戻る。
「いつもはここでどんなことをされているんですか?」
「そうだな…ぼんやりしたり、考え事したり、昼寝したり…」
「お昼寝…お一人だと危なくないですか?」
「仮面をして昼寝している怪しい奴に近づく者はいないだろう」
鳳珠が懐から仮面を出して笑った。
「そうだな…少し昼寝させてもらおうか…」
少し位置をずらすところりと横になり、頭を春麗の膝にのせる。
「鳳珠さま⁉︎」
「人が近づいたら仮面をのせてくれ」
と手渡して、目を閉じてしまった。
「…」
美しい顔をじっくり見る機会もない、とそっと視線を落としてみる。
少し目の下に隈がでているのは、ここのところ忙しかったり、自分をかまったりで少し睡眠不足なのだろう。
(それにしても…本当に綺麗。お肌も綺麗だし、それに…)
起こさないようにそうっとサラサラの髪の毛にそっと手を伸ばしてみる。
春麗の髪もサラサラしてはいるが、鳳珠はそれ以上だ。
あまり触ると目を覚ましてしまうと思って手を離し、景色を眺めながらぼんやりとこの一年半の目まぐるしい変化について、ぼんやりと考えていた。