茶都・月の宴−2
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「尚書室は今使えないので、ここで申し訳ない。そちらにお座りください」
黄尚書が一人で入ってきたのをみて、両将軍は訝しむ。
座ってから白大将軍が口を開く。
「黄尚書、紅官吏は?」
「あんなことがありましたし、軽いものですが怪我もしましたので、今は休ませています。それで、御用の向きとは?」
淡々と告げる。
「先程の件、誠に申し訳なかった。捕まえた者は刑部に渡し、他の者も兵部と共同で身元確認をする段取りにしている。吏部査定があるようであれば、それも受ける旨を紅尚書に話してきた」
「そうですか」
黄尚書の仮面の下の表情は二人にはわからなかったが、さして興味のなさそうな声音に聞こえた。
「今後のことについてだが、配属の時から、宋太傅からは紅官吏が怪我をしたら羽林軍指南はやめさせると黄尚書から言われていると聞いている。だが、我々はできれば続けてもらいたいと思っている。彼女の知識は確実に武官の役に立つし、机上の理論だけではないということが今日のことで皆よくわかっただろう」
「だからあなた方は傍観していた、ということか」
「そういうわけではないが…」
気まずそうに白大将軍が視線を落とす。
「今日はまだ、ことが起こったばかりですので、後日、落ち着いて今後どうするかを確認してご報告しましょう」
この話はここまで、と黄尚書が席を立ち、二人に退室を促した。
「黄尚書」
室を出るとき、それまで黙っていた黒大将軍が口を開いた
「その…彼女に、詫びていた、と伝えて欲しい」
それだけ言って、二人は出て行った。
(黒大将軍が口を開くとは珍しい。本心なのか、それとも…)
だが黒大将軍が実直な人であることは知っている
(考えすぎか…?)
鳳珠は去っていった二人の背中を見ながらそんなことを思っていた。
尚書が大将軍たちと話している頃、尚書室では尚書の有能な副官、かつ朝廷の良心・景柚梨が春麗を宥めていた。
「鳳珠はあんな言い方しましたけど…春麗ちゃんのことが心から心配だったんですよ。あの人、怒りっぽいところはありますけれど、理不尽に怒る人ではありませんし、それに…あんなに取り乱しているのは初めて見ました」
「・・・」
「きついこと言ってましたけれど、もう一度だけこの件に関して、鳳珠と話をしてもらえませんか?私もですけれど、怪我も腕だけで済んでいるのか心配ですし、正直に話してもらったほうが鳳珠も私も安心します」
「ごめ、んなさい…」
「謝ってもらおうと思っているわけじゃないんです。春麗ちゃんが自分の意見を出しているのだから、それは尊重したいと思っていますよ。でも今回の件だけは、命の危険もあったわけですから、危ないところに自ら突っ込んでいって欲しくないだけなんです。わかりますね?」
コクリ、と春麗は頷く
柚梨はにっこり笑った
「私からの意見はここまでにしましょう。それにしても、十人以上の兇手を倒せるなんて、春麗ちゃんは見かけによらずすごく強いんですね。後見が宋太傅でしたが、武術も宋太傅仕込みですか?」
「あ、はい…」
「秀くんも強いのかな?」
「いえ、秀麗は全然…わたくしだけなんです。その…景侍郎は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、…ずっと昔、まだ王位争いの前に、府庫で小さい女の子に宋太傅宛の手紙を託されたことはありませんか?」
柚梨は記憶を辿っていく。
そういえば、小さな女の子に手紙を渡されて、宋太傅に届けたことがあった…と思い出した。
確か、邵可殿についてきた、と言っていた気がする。
そして、春麗は邵可の娘だ…
「ま、まさかあれが…春麗ちゃん?」
「はい、そうです。わたくしが武術を身につけられたのは景侍郎のおかげなんですよ」
「それはそれは…私たちは随分と昔からご縁があったんですね」
(これは、春麗ちゃんに武術をして欲しくない鳳珠には黙っていた方がいいかもしれない…)
柚梨驚きと戸惑いをないまぜにしたなんともいえない表情をしていると、話を終えた鳳珠が戻ってきた