茶都・月の宴−2
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その後、戻った春麗の包帯に柚梨が気がついて心配をする。
尚書室に入り、「お茶は私が入れますね」と柚梨がお茶係を代わり、飲みながら春麗が顛末を話す。
鳳珠は黙って仮面を外す。
「お嫁入り前のお嬢さんに大きな怪我があってもいけないですし、今回みたいなことがまた起こらないとも限りませんから、指南役はやめたほうがいいですよ」と柚梨も言う。
「これだけ危険な目に遭っていてもまだ続けるらしいぞ、この馬鹿は」
「馬鹿ってなんですか!わたくしが惹きつけていれば、秀麗に向かう矛先は減るじゃないですか!」
「お前自身はどうなんだ、いくら武に長けていても今日より大勢で来られたら一人で防ぎ切れるわけないだろう!」
「羽林軍だけが敵じゃありません!女人官吏というだけでどこにだって反対派はたくさんいますから、”やっぱりできなかった”という形は見せたくないんです!」
「だったらなおのこと、自ら危険なところに飛び込む馬鹿がどこにいるんだ!」
鳳珠はともかく、普段あまり大きな声を出したりしない春麗の様子に、柚梨が目を白黒させる。
「鳳珠!あなた言い過ぎですよ!」と嗜める
「宮城の中に兇手が紛れているということをさっきのことでわかったというのに…」
鳳珠は忌々しげにバンっ、と机を叩く。
扉を叩かれて、戸部官の声がした。
「あの、白大将軍と黒大将軍が、尚書にお目にかかりたいと来られています」
「…ここは駄目だ。侍郎室に通してくれ。柚梨、借りるぞ」
鳳珠は向き直って仮面をつけながら春麗に告げる
「とにかく、今日はできる限りここにいろ。使いにも出さん。お前がさっき言っていた、”明日は茶州州牧の就任式”なら今日中はまだ狙われる確率が高い、ということだ。帰りは一緒に帰る。柚梨、悪いがしばらくここで春麗を頼む」
春麗は下を向いて唇を噛み締めていた。
室を出るところを柚梨が捕まえて、春麗に聞こえないように小声で言う。
「鳳珠…あなたそんな言い方していたら、気持ちは伝わりませんよ…春麗が心配だからやめてほしい、自分のそばにいろ、だけでいいじゃないですか」
柚梨には鳳珠の気持ちがわかってしまった。
自分と同じ方向だけかと思っていたが、違う意味でも、彼が心配しているということを。
鳳珠は目を見開いて柚梨を見る。
「春麗ちゃんは普段あまり自分を出さないのに、あそこまで自分の意見を言っているのを見て驚きましたよ。あなたの前では本心が出せるということですね。その信頼の証であった話を、あなたは頭から否定した。もうわかっているでしょう?大将軍との話がついたら謝って、怒った理由を説明してあげてくださいね。そうしないと、この先きっと取り返しのつかないことになりますよ」
鳳珠は柚梨の言葉には答えずに、そのまま侍郎室へ向かった。
柚梨は(もしかして違ったか?)と思ったが、いずれにしても鳳珠と春麗の間には何か特別な感情があるようには思えたので、まず春麗を宥めるところから、と室内に戻った。