茶都・月の宴−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから仕事が忙しい日常はつづいた。
春麗は戸部での仕事も少しずつ慣れてきて、景侍郎の指導もよく、周囲の想定より早く必要な知識を習得していっている。
もっとも、邸での優しさとうらはらに、仕事での黄尚書の厳しさはいつも通りだ。
戸部内でも他からも、戸部配属の新人が二ヶ月近くもっていることに驚きの声があがっているが、本人たちは知らない。
その日は戸部で仕事をしていた。
中央の財政について、山積みにした資料から一つずつ片付けていく。
(うーん…)何せ膨大すぎる。
春麗の記憶力を持ってしても、なかなか頭に入っていかない。
(そろそろお茶の時間にでもしましょうかね)
準備をしていると、バン!と大きな音がして、次いでヅカヅカという足音が聞こえた。
「春麗!!」
「貴様!また勝手に入ってきて!」
「春麗!秀麗たちが金華で合流できた!」
春麗も鳳珠も、音に慌てて来た柚梨も目を見開く。
「よか、た…」
ふぅ、と大きく息をつく。
「お知らせいただきありがとうございます」
「良かったですね。春麗ちゃん。秀くんも無事と知って私も安心です」
景侍郎がニコニコと話しかける。
春麗は少し遠くを見て目を細める。
「春麗、やめておけ」
鳳珠の低い声がした。
ハッと我に返って、振り返ると、仮面の下の鋭い瞳と目があった。
(見ようとしたのを、止められた…)
黎深は、鳳珠と春麗を見比べ「なるほど」と呟いてから言った。
「次は…着任式までの妨害だな。あと二十日近くある。茶州と茶家のことはどうにもならんので、私も今回は茶州までは手は回さない。春麗も気をつけるように」
「はい」
黎深はパチンと扇を鳴らして続けた
「気をつけろ。春麗にはいつも通りつけている。夜はかならず俥を使え」
この黎深の警告を忘れていたわけではなかった。
行きは珀明と、帰りは俥を使って鳳珠邸へ。
充分気をつけていたつもりだったが、思わぬことがこの後起こることになる。