茶都・月の宴−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「わたくし…人の人生の先、が見えるんです。それから、千里離れたものも」
鳳珠は流石に息を呑んだ。
たっぷり三拍おいて、ふぅと吐く。
「でも…わかっているのに、何もできないんです。ただ、見えてしまうだけ…こんなの、気持ち悪いって思いますよね?人の人生を勝手に見てしまうなんて、卑怯だって思いますよね??」
春麗はポロポロとまた涙を流す。
鳳珠はそっと春麗を抱き寄せてから、腕に力をこめていく。
「思わない…そんなことは、思わない…」
春麗は泣きながら顔を上げ、鳳珠を見つめる。
「それを変える力がなくて当たり前だ。どこかで結果が変わることもあるかもしれないが…だがもしはじめから決まっているものがあるとするのなら、その結果は春麗のせいではないし、もし何か手を打てたとして結果が変わっても、それもまたお前のせいではない。人が一人でできることは限られているからな。」
鳳珠は少し視線を落とす。
春麗と目が合うと続けた。
「だが…見てしまったことでお前が傷つくのであれば、私がその傷を癒そう。抱えきれない思いは一緒に持とう。だから…大丈夫だ、一人で泣くな」
「本当に?鳳珠様、気持ち悪い、って…思わない?嫌いに…なってない?」
春麗は不安げに尋ねる。
鳳珠はフッと笑った。
「そんなこと思っていない…たった今、言っただろう?抱えきれない思いは一緒に持とう、と」
「鳳珠さまぁ!」
子供の頃のようにわぁっと泣きながら春麗が首に腕を回して抱きついてきた。
腰に手を回してポンポンと叩き、そっと髪を撫でながら思う。
邵可殿との関係性。
春麗、秀麗と双子の娘なのに距離感が全く異なること。
家が秀麗を中心に全てが回っていること。
そして、去年の春の茶太保の事件があった時、黎深が”彼女は生まれた時から一人だ。そして自分を犠牲にしている”と言っていたこと…
(生まれた時から言葉を持っていた、と言うことは、生まれた時にそれを理解してしまったということだろう。だから周りが意図した”秀麗優先”を汲み取って自分を犠牲にしてきた…母上と黎深が支えてきたとはいえ…)
「よく、一人で頑張ったな…」
しばらく大泣きしていたが、涙が止まった頃、泣き疲れたのか春麗は鳳珠にしがみついたまま、いつの間にか眠っていた。
「・・・」
首に回された腕をそっと解き、抱きかかえて寝台に横たえる。
小机の上に、濡れた手巾が置いてあった。
おそらく、瑞蘭が用意していたものだろう。
それをそっと春麗の目元に載せる。
これだけ泣いたら、明日の朝は目が開かないかもしれない、と少し心配になる。
目元の冷たさで目が覚めてしまうかと思ったが
「ん…」
と春麗は小さく声を出して、鳳珠の夜着をぎゅっと握ってきた。
「・・・」
これでは、室から出られない。
(どうするか…)
しばらく寝顔を見ながら、先程のことを振り返る。
おそらく、茶州組の様子を”見て”しまったのだろう。
そこで、彼らがどういうことになっているかを知って、それをどうにもできないことに不安が募ったのではないか…
(それを伝えるには、さっきの話をしないと伝えられなかった、ということだったのだろうな。で、感情の振れ幅が大きすぎて泣きすぎて力尽きた、と…)
春麗が掴んでいる夜着を少し引っ張ってみるが、ますますきゅっと握って、手を離す様子はない。
年頃の女人と同衾など…と思ったが、手を離してくれないから仕方ない、とか、目覚めた時に今までの話を思い出して、自分が近くにいないと嫌われたと不安に思うかもしれない、などとあれこれ理由をつけて、鳳珠はそのまま隣に横になった。