はじまりの風−1
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「兄上!」
「黎深…仕事しないで何をしに…ん?君は?」
さっと礼をとる。
「”天寿”と申します。戸部より遣いで参りました。こちらの本をお返しと、この続きを5冊お願いいたします」
「あぁ、戸部に貸してたのだね、こっちにあるよ、案内しよう」
「兄上、私はお茶の用意をしておきます」
という黎深の言葉には答えず、邵可は歩き出した。
棚から出すときに小声で「父様」と呼びかけると、邵可は振り返って驚きで目を見開いた。
「この格好をしているときは”天寿”です。秀麗に見つかるとうまくいかないと思うので、なるべく会わないようにしますが父様も気をつけてください」
「春麗…」
「”天寿”」
「天寿、ね、うん、わかったよ」
本を受け取り
「では、黎深叔父様をよろしくお願いします。僕は戻って次の仕事がありますので、失礼します」
と言って府庫を後にした。
「兄上、あれ?天寿は?」
「次の仕事がある、と言って戻ってしまったよ」
「…」
卓の上には茶杯が3つ。黎深が盛大に落ち込んだのは言うまでもない。
「ただいま戻りました。こちら、ご指定の本になります」
と頼まれた本を5冊渡す。
「天寿くん、早いですね!」
と景侍郎がびっくりした顔をして声をかけてくれた。
「そうですか?」
(そんなびっくりすることかしら?)と思って尚書を見たけれど、仮面でよくわからない。
とりあえず散らかっているものを黙って片付ける。
「こちらの書簡の山は触っても大丈夫ですか?」
と声をかけたら頷かれたので、机を拭きながら部署の名前別に並べ替えてみた。
それ以外は、あまり勝手に触ってもいけないので、どこに何を置いているかみながら、当たり障りのないものから手をつけていく。
紙や筆など備品を置いている棚を片付けたが、紙と墨の残りが少なかったのでとりに行こうと思ったものの
(だいたいの部署の場所はわかるけど備品のありかなんて知らないわ)
と気がつき、景侍郎に小声で尋ねる。
「紙と墨をもらってこようと思うのですが、どちらに伺えばよろしいでしょうか?」
「気になっていたんですよね、ありがとう。吏部の手前を右に曲がった突き当たりのところで頼めば貰えますよ」
「ありがとうございます、行ってきます」
お礼を言ってすたすたと戸部を出ていく。
「鳳珠、天寿くん、すごく仕事が早いですね。よく気がつくし」
「あの早さで戻ってきたということは、工部でも吏部でも絡まれなかったようだな」
「明日も手伝ってくれるといいのですが」
戻ってきてからもあらかた片付けているうちに、定刻となった。
「今日はありがとうございました。天寿くん、仕事も早いし、色々気がついてくれるので助かりましたよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
褒められると素直に嬉しい。ニコニコしていたらしく、尚書がぽんぽんと頭を軽く叩いてくれた。
(うーん、これは?)と思っていると
「尚書も褒めてます」
と景侍郎が通訳してくれた。
「明日も手伝っていただけると嬉しいんですけれど」
「あの…他の仕事も手伝っているので、朝からは難しいのです。なるべく早めに、遅くてもお午過ぎには来られると思いますが、それでもよろしいでしょうか?」
朝から来てもよかったが、なんとなくそう答えてしまった。
「構わないですよ。ぜひお願いします。」
「わかりました、よろしくお願いします。それでは、失礼いたします」
きちんと挨拶と礼をして、戸部仕事1日目が終了した。