茶都・月の宴−1
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「わたくし…普通の生まれではないんです」
鳳珠は少し目を見開く。
”普通の生まれではない”という言葉の意味が、よくわからなかった。
だが、先を急がずじっと待つ。
「でも、いわゆる、縹家筋が持つ、異能とか術、にちかいようなのですが…」
春麗は言葉を選びながら、ぽつりぽつりと話していく。
「いくつかあるのですが、一つ目は……はじめに言葉があった、んです…生まれた時に、言葉がわかった…それを最初から知っていたのは、亡くなった母様だけなんです…」
(一つ目、ということはまだ他にあるということだな)
鳳珠は黙って一度頷く。
「あともうふたつ…母様は、言葉はいつか皆追いつくけれど、こちらの方は知られてはいけない、と…」
春麗はため息をついた。
言うのが、怖い…
「これを知っているのは、黎深叔父様と父様だけなんです…黎深叔父様はおそらく母様と一緒で、初めからご存知だったのではないかと思うのですけれど、確認したわけではないんです。でも、ご存知で…父様は…どこで知ったのかわかりません。母様から聞いたのかもしれません…」
下を向いてきゅっと自分の手を組む。
「それで、多分、父様が秘密にしておきたいことをわたくしが知ってしまっている、と思っていて…それでわたくしと距離をおいているのでしょう…」
無意識に、遠回しに遠回しに話してしまい、なかなか確信には触れられない…
言ってしまえば楽になるかもしれない。
鳳珠様なら受け止めてくださるかもしれない。
でも、言ってしまったことで、人生がどう変わるかわからない…
怖い…怖い…!!
いつの間にか自分自身で握っていた手にかなりの力が入っていたらしい。
真っ白になって、爪がギリギリと食い込み始める。
鳳珠がはっと気づいて
「春麗、いけない、傷ついてしまう!」
と言い、大きな手をあててそっと撫でる。
温かい鳳珠の体温が伝わってきて、少しずつ力が抜けたところを、そっと握った手を離して、右手をきゅっと握りしめてくれた。
ほんの少し、身体の力も抜ける。
「こんなに安心していられる場所を失うのが…鳳珠様の側にいられなくなるのが怖いんです…」
(ここまで前振りはしているが、肝心のところが聞けていない)
言葉で伝えるのがいいのか、態度で伝えるのがいいのか…
鳳珠は少し迷っていたが、ふと顔を上げて見つめてきた春麗の不安に揺れる瞳を見て、そっと左手で髪をひと撫でしてから、もう一度肩を強く抱いた。
春麗は、もう一度目を閉じて少し俯いてから、意を決したように顔を上げた。
「わたくし…人の人生の先、が見えるんです。それから、千里離れたものも」