茶都・月の宴−1
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持ってきた数枚の衣から薄紅梅の衣を選んで袖を通して、室を移動する。
給仕の家人が準備をし終わると、「終わったら声をかける」と鳳珠がいい、家人たちは退室した。
少ししてから、仮面を外す。
「せっかく初めて邸で食事をするのに、コレありだと、と思ってな。おそらく、瑞蘭が控えているが、彼女は平気だ」
「ありがとうございます。足りないものとかあったら、わたくしが取りに行きますのでおっしゃってくださいね」
食事をしながら少しずつ話をする。
「お食事、初めて見るものもあります。黄州のお料理ですか?」
「あぁ、いつもというわけではないけどな。春麗は食べたことがないかと思って、二品ほど頼んでおいた。口に合うかわからんが」
「とっても美味しいです。優しいお味ですね。わたくし、紅州と紫州の味付けしか知らないので、今度教えていただきたいです。お願いしてもかまいませんか?」
(作ったら、鳳珠様は喜んでくださるだろうか…)
「あぁ、構わない。今までは泊まり込みも多くてあまり邸にいることもなかったから、庖厨人は喜ぶだろう」
「ありがとうございます。鳳珠様は早く帰られた日はどんなふうに過ごされているのですか?」
なるべく邪魔にならないようにしないと、と思って聞いてみた。
「ん?そうだな…仕事してるか…本を読んでいるかだな…たまに少し飲んだり?あまり面白みはないかもな?春麗は休みは普段どうしていたんだ?」
(まぁ公休日も出仕されているぐらいだから、お仕事というのは納得ね…)
なんとなく押し黙った春麗を見て、
「休みの時は出かけたりもするぞ。今度、一緒に遠出してみるか?」
「遠出?」
「あぁ、日帰りできる距離だけどな。気に入りのところがいくつかある」
ぱぁぁっと顔を明るくしたが、その後また黙った春麗を見て
「いつも一人で行っているからな、もしその時に予定がなければ一緒に行ってくれると嬉しいのだが…」
ともう一度誘ってみる。
「あまり出かけたことがないので…行ってみたいです」
「そうなのか?旅をしたことは?」
春麗はちょっと上を向いて思い出すように答える。
「黎深叔父様からお聞きになっているかもしれませんが、わたくしたち、旅先で生まれたんです。その後、紅州に戻ってしばらくいて、それから貴陽にくる時に、たしか茶州の方を回ったはずなんです。すごく幼い時で…たしか、その時に静蘭が家族になったのと、秀麗が甘露茶を気に入っていたことくらいしか…」
俥の半蔀から景色を見た記憶はあるが、なぜだかこの時期のことはあまり覚えていない。
静蘭が急に家族になって、戸惑いのほうが大きくて他のことをあまり覚えていないのかもしれないわね、なんて考える。
「貴陽に来てしばらくしてから、黎深叔父様も紅州来られたんです。今になって思えば、それが国試の時で、鳳珠様と悠舜様と一緒に木の上から落ちてこられたのはその少し後だと思います。そういえば、なんで木登りなんかされていたのですか?」
鳳珠はその時のことを思い出して、ぷっと吐き出した。
「黎深に、どことも言われず無理やり連れて行かれて木登りさせられた。木から落ちて邵可殿が現れてから、そこが黎深の兄上の邸で、邵可殿から友達を連れてきたら邸に入れてあげると言ってた、と聞かされて2度驚いたな」
聞いている春麗もフフフと笑う。
「叔父様の行動がよくわからないのは昔からですから。ずいぶんあやしてくださいましたけど、独特というか…最初はみかんも上手に向けなくて潰しちゃってたんです。玖琅叔父様は手先が器用で上手に剥いていたんですけどね」
色々思い出してきた。
「貴陽に来てからは、邸周りと下町と黎深叔父様のお邸くらいしか行かないので、旅というのはあまり想像がつきません」
(私のことを覚えていたのもそうだが、春麗はずいぶん幼い頃の記憶があるのだな…)
鳳珠はぼんやりと考える。
何か引っかかるのだが、それが何か分からずに、敢えて口にすることはしなかった。
食事が大体終わって、食後のお茶を春麗が淹れながら尋ねる。
「鳳珠様は旅はお好きなんですか?」
「私か?そうだな、好きだが実際に旅らしい旅したのは春麗と同じで…黄州から貴陽に出てきた時だけだ。と言っても黄州はかなり近いが、あれが黄州を出たのが初めてだったし、その後は実は一度も帰ってない。私は地方への赴任経験もないからな」
ありがとう、と受け取り一口飲んでから続けた。
「だから、というわけではないが、たまにふらりと日帰りができる遠出をして、見える景色を変えている。いい気分転換になるからな。そうだな…最近遠出もしてなかったし、次に行くところはどこにするか…考えておく」
「ありがとうございます。嬉しいです」
出かける様子を想像して、春麗は少し微笑んだ。